一部の有機溶媒は,酸素の溶解量が多いと吸光度が増大します。 これを逆に言えば,脱気を行うことにより移動相吸収によるバックグランドを下げることができるわけです。 例えば,空気(酸素の分圧0.2気圧)が,飽和溶解量になっているメタノールを移動相として210nm測定を行っている時に,Heパージによる脱気を行えば,0.32AU以上バックグランドが下がります(図18)。 従って,酸素溶解量が多い時は,ノイズレベルが大きいことは勿論,さらに移動相の液温変化などにより溶解量が変化することからベースライン変動も大きくなります。 仮に0.01AUフルスケールで測定した場合,酸素の溶解量が1%変化するとベースラインはフルスケールの30%以上変化することになります。 また,酸素溶解量の多いメタノールを用いてグラジエントを行った場合,ベースラインの傾きが大きくなり(図19),ピークの波形処理に問題が生じやすくなります。
この溶存酸素の影響は,短波長域で大きいのですが,テトラヒドロフラン(THF)では,比較的長波長までこれが認められます。 254nmでの影響は,THF>メタノール>アセトニトリル>水となります。 一方,短波長域でもアセトニトリル(LC用)ではあまり影響がみられません。 従って,吸光度増大は,酸素自体の吸収ではなく,溶媒あるいはその不純物と酸素の間の何らかの特異的な相互作用によるものと考えられています。
UVの短波長で高感度分析を行う場合は,LC用アセトニトリルを用いるのが原則ですが,分離の選択性からメタノールやTHFを用いる必要のある場合は,溶存酸素量を減らし,しかも一定に保つような脱気を行って下さい。