HPLCで用いる基本用語シリーズとして,シリカゲル充塡剤に関連する用語を解説します。カラムの取扱説明書やHPLCに関する実用書などを見ていると,よく目にする言葉を集めてみました。

シラノール基(silanol group)

シリカゲルは,非晶質のけい酸重合体で,SiO2・nH2O で表されます。シラノール基(Si - OH)は,このシリカゲル表面に存在するもので,孤立(isolated),ビシナル(vicinal:隣り合うシラノール基が水素結合している),ジェミナル(geminal)の3 つのタイプが知られています(図1)。シラノール基は,個々の状態などによって程度の差はありますが,一般に弱酸性を示します。

図1 シラノール基のタイプ(孤立/ビシナル/ジェミナル)
図1 シラノール基

シラノール基は,吸着クロマトグラフィーにおける吸着活性点であり,次に述べます化学結合による固定相官能基導入に不可欠な基です。

化学結合形シリカゲル(chemically bonded silica gel)

シリカゲルに,固定相官能基を化学結合(共有結合)させた充塡剤です。通常,シリカゲル表面のシラノール基に種々の官能基をもった有機シラン化合物を反応させて作ります(シリル化と呼びます)。逆相クロマトグラフィーで広く用いられるODS は,シリカゲルにn -オクタデシルシリル(octadecyl silyl)基を導入した充塡剤の略称です。図2 に,ODS の調製例を示します。

図2 ODS の調製例
図2 ODS の調製例

モノメリック固定相(monomeric stationary phase)
ポリメリック固定相(polymeric stationary phase )

化学結合形シリカゲルを調製する際,有機シランの反応性官能基が図1 のように1 個(ここではCl 基)の場合,1 個のシラノール基と反応します。これをモノメリック固定相と呼びます。一方,反応性官能基が2 個あるいは3 個の場合,別のシラノール基との反応や有機シラン同士の反応が起こります。こうしてできた固定相をポリメリック固定相と呼びます。合成条件により,化学結合相の様子が異なりますが,図3 に3 官能性有機シラン(オクタデシルトリクロロシラン)により調製されたODS の一例を示します。
これら以外にも,さらにシリル基がつながっているもの,シリカゲルと3 箇所で結合しているものなどがあります。また,図1 のようにシラノール基と1 箇所で結合しているモノメリックタイプが混在することもあります。(この場合,残り2個のCI 基はOH 基となります。)

図3 3 官能性有機シランにより調製されたODS の一例
図3 3 官能性有機シランにより調製されたODS の一例

一般に,モノメリック固定相は,合成が容易で,合成再現性も優れていますが,耐久性や保持力などに難点があります。一方,ポリメリック固定相は,合成の難易度は高いですが,合成条件によりいろいろな形で固定相官能基を導入することができます。また,保持力が強く,耐食性にも優れています。
ただし,分析種によって適不適がありますので,一概にどちらのタイプがよいとは言えません。さらに,メーカーによる特性の違いもありますので,充塡剤選択にあたっては,メーカーの技術資料やデータ例を参考にして,ある程度の試行錯誤が必要です。

エンドキャッピング(endcapping)

化学結合形シリカゲルの調製においては,立体障害などにより,必ず未反応のシラノール基(図3 の赤い点線部分で,残存シラノール基と呼ぶ)が残ります。残存シラノール基は,分離にポジティブな影響を与えることもありますが,多くの場合,塩基性化合物のピークテーリングなどの原因となります。そこで,固定相官能基導入後,さらに残存シラノール基をシリル化します。この操作がエンドキャッピングです。エンドキャッピングを行っても完全に残存シラノール基をなくすことは困難ですが,各メーカーによりいろいろな工夫がなされています。

[参考文献]
1) JIS K 0214:2013 分析化学用語(クロマトグラフィー部門)