分離度と理論段数,分離係数,保持係数との関係式

分離度(R)と理論段数(N),分離係数(α),保持係 数(k),との関係は,(1)式で表すことができます。(た だし,二つのピークのピーク幅が等しく,k は後ろのピー クの保持係数とします。)

では,分離度の向上に,理論段数,分離係数,保持係数が具体的にどのように寄与するのでしょうか?(1)式を基に考えてみましょう。

理論段数の寄与

(1)式より,分離度は理論段数の平方根に比例します ので,理論段数が2 倍では分離度は√2 ̄=1.41 倍に,ま た4 倍では√4 ̄=2 倍になります。 今,理論段数10,000 段のカラムを用いた時,2 本の ピークの分離度が「0.8」であったとします。分析カラム を変更して,分離度を「1.5」(完全分離)に向上させる ためには,理論段数をいくらにすればよいでしょうか? この場合,分離度を1.5/0.8=1.9 倍にすることになり ますので,分離係数,保持係数が変わらないとすると, 理論段数は1.9の2乗=3.6倍,すなわち36,000 段必要であ ることがわかります(図1)。理論段数を高めるには,同 じ充填剤ではカラム長さを長くすればよいのですが,こ の例では長さを何と3.6 倍にもしなければなりません。

理論段数と分離度

 

図1 理論段数と分離度

しかし最近では,充填剤粒子径が 2 μm 以下のカラム を用いた超高速LC(UHPLC)により,同じカラム長さ でもより高い理論段数が得られるようになってきました。 ただし,この場合,カラム圧が高くなるため,高耐圧な HPLC 装置が必要となります。

分離係数の寄与

(1)式における分離係数が分離度に与える影響,すな わち αと(α -1)/ αの関係は,図2・左のようになり ます。 分離係数は2 本のピークの保持係数の比であり,充填 剤固定相,移動相pH(イオン性分析種の場合),移動相 有機溶媒の種類,カラム温度などの条件により変化しま す。図2 より,分離係数は「1.2」程度までほぼ直線的 に分離度向上に寄与することがわかります。前出の例に おいて,分離度「0.8」での分離係数を「1.1」とすると, 分離度「1.5」を得るには分離係数は「1.2」程度にすれ ばよく,効率的な分離度向上が可能です。ただし,条件 を最適化するための検討時間が必要です。

保持係数の寄与

分離係数と同様に,(1)式におけるk とk/(1+k)の 関係は,図2・右のようになります。 保持係数はより溶出力の小さい移動相に変更すれば大 きくできますので,例えば逆相クロマトグラフィーにお いては,有機溶媒比率を下げればよいことになります。 しかし,図2・右のように,保持係数が分離度向上へ寄 与するのは溶出が早いピークの場合であり,例えば保持 係数を「3」から「9」にしても,分離度は1.2 倍にし かならない反面,分析時間が長くなってしまいます。

分離係数,保持係数と分離度

 

図2 分離係数,保持係数と分離度



以上のように,(1)式から分離度向上のための基本的 な考え方を理解することができます。基本はしっかりつ かみましょう!