逆相クロマトグラフィーは,HPLCでもっとも広く用いられている分離モードです。逆相クロマトグラフィーによる分離条件設定の基本となる移動相pHのおはなしです。



 

pHとpKaの基礎

pHは,溶液の酸の強さ弱さを表す指標で,水素イオン濃度を用いて(1)式のように表されます。

(1)式

一方,酸解離定数(Ka)は,物質の酸の強さを定量的に表す指標です。弱酸(AH)を例にすると,解離状態(A)と非解離状態(AH)での解離平衡式は(2)式,酸解離定数Kaは(3)式となります。また,一般にKaは,pHと同様,常用対数を用いて(4)式のように表されます。

(2)式,(3)式,(4)式

これらの式から,pH とpKaの関係を表す(5)式が得られます。

(5)式

(5)式より,溶液のpH が酸のpKaに等しい時,[A]/[AH]=1,つまり解離状態と非解離状態の存在比がちょうど1 対1 になることがわかります。また,pH > pKaでは解離状態が多く,pH < pKaでは非解離状態が多くなります。

移動相pH による保持の変化

逆相クロマトグラフィーの保持は,基本的に疎水性相互作用に基づきます。従って,イオン性化合物では,一般に非解離状態の方が疎水性が強く,保持も強くなります。このことを(5)式から考えてみると,図1 のように,移動相pH がその化合物(この場合,安息香酸)のpKaより低いと溶出が遅くなり,その逆では溶出がはやくなることが理解できます。

図1 移動相pH と保持の関係(概念図)

図1 移動相pH と保持の関係(概念図)

酸性化合物による実例

図2 に,移動相として酸性緩衝液と中性緩衝液を用い,安息香酸,-トルイル酸,フェノールの3 成分を分析した例を示します。上段の酸性緩衝液条件と下段の中性緩衝液条件を比較すると,安息香酸と-トルイル酸の保持が大きく変化しています。一方,フェノールの保持はほとんど変化していません。
この理由について,図3 を見ながら考えてましょう。
安息香酸のpKaは約4.2,-トルイル酸のpKaは約4.3ですので,移動相pH がそれぞれのpKaより酸性側である「2.6」の時には,非解離状態が多くなります。すなわち,保持が強くなります。一方,移動相pH がそれぞれのpKaよりも塩基性側の「6.8」では解離状態が多くなり,保持が弱くなるわけです。では,フェノールはどうでしょうか?フェノールのpKaは約10 ですので,どちらの移動相においても保持はほとんど変わらないのです。

図2 移動相のpH と保持挙動

図2 移動相のpH と保持挙動

図3 各成分のpKa と移動相pH

図3 各成分のpKaと移動相pH

以上,イオン性化合物の場合,移動相pH は逆相クロマトグラフィーにおける保持挙動に大きな影響を与えます。
言い換えると,移動相pH をうまくコントロールすることにより,分離を調節することができるのです。