HPLC で用いる水のはなし

分析の留意点

LCtalk69号 入門 の改訂版です

HPLC において,水は移動相や試料調製に不可欠なものです。移動相中に不純物が存在すると,バックグラウンドの上昇にともなうベースラインノイズの増大やドリフト,またマイナスピークやグラジエント溶離時の不明ピークの出現といった現象が見られることがあります。
一方,試料溶液中に不純物が存在すると,同じく不明ピークの出現や,その不純物が対象成分自身であれば定量値に影響を与えることになります。このような水が一因となって引き起こされるトラブルで困らないように,またデータの信頼性向上のために,今回は水についての基礎的なお話をします。

水の純度は? 

それでは,HPLC で用いるにはどの程度の純度が必要でしょうか? 「JIS K 0124: 2013 高速液体クロマトグラフィー通則」 には,以下の記載があります(引用)。

 この規格で用いる水は,逆浸透膜法,蒸留法,イオン交換法,紫外線照射,ろ過などを組み合わせた方法によって精製した水で,分析に干渉しない水質のものとする。水質は比抵抗値,総有機物(TOC),吸光度などを指標とし評価する。

では,もう少し具体的に見ていくことにしましょう。

逆相クロマトグラフィーに用いる水は?

逆相クロマトグラフィーは,一般に有機物の分離分析に用いられる分析手法なので,移動相や試料調製に用いる水には有機物を十分に除去した水が望まれますが,用いる検出器によって求められる純度は異なってきます。
紫外吸光光度検出器を用いる場合は,市販HPLC 用蒸留水を用いるのが一般的に推奨できます。市販HPLC 用蒸留水は,紫外部に吸収を持つ不純物を取り除き,短波長域における吸光度を保証していますので,このグレードの水を用いれば基本的には安心であると言えます。

一方,自家精製の場合,蒸留やイオン交換だけでは通常不十分です。ぜひ超純水製造装置をお使いください。 最近では,紫外線照射により有機物を分解させ有機体炭素量(Total Organic Carbon:TOC 量) を低減できる超純水製造装置が主流となっています。特に,グラジエント溶離法の場合,このTOC 量の差がゴーストピークの出方に顕著に現れることがあります。なお,蛍光検出器,質量分析計を用いる場合は,市販HPLC 用蒸留水でも不十分なこともあります。このような場合。蛍光分析用グレードやLCMS 用グレードを用いるか,超純水製造装置を用いるのが良いでしょう。

なお,超純水は「JIS K 0211: 2013 分析化学用語(基礎部門)」では,以下のように定義されています(引用)。

 a) TOC値が非常に少なく,抵抗率が18 MΩ・cm以上(電気伝導率 0.056 μS/cm以下)に精製された水。

 b) 逆浸透膜,イオン交換樹脂(連続イオン交換体を含む),活性炭,紫外線および限外ろ過膜などを組み合わせて精製した水で,抵抗率が18 MΩ・cm以上(電気伝導率 0.056 μS/cm以下)の水。

イオンクロマトグラフィーに用いる水は?

イオンクロマトグラフィーは,基本的にイオン性物質の測定に用いられる分析手法であることから,イオンが十分に取り除かれている水を用いることがもっとも重要になります。超純水製造装置から採水した水で,比抵抗が18 MΩ・cm 以上ある水を用いるのがベストです。
市販のHPLC 用蒸留水は,先述しましたように紫外吸光光度検出器を用いた分析用として品質保証された水であり,必ずしも無機イオン分析用として保証された水ではありませんので,使用する際には,念のためその分析で問題を与えないことを確認してから使用した方が良いでしょう。一般に,「イオン交換水」や「精製水」と表示された市販の水は,メーカーによって品質がまちまちですのであまりお勧めはできません。以上の点から,イオンクロマトグラフィーでは,市販の水を用いるより超純水製造装置から採水した新鮮な水を用いるのがトラブルフリーで安心だと言えます。

水の正しい扱い方は?

純度の高い水ほど,扱いには細心の注意が必要です。水は様々な物質を溶かし込みますので,空気と接触した時点で汚染がはじまると考えてください。市販の水を用いる場合は,なるべくはやく使いきった方が良いでしょう。超純水製造装置では定期的なメンテナンスが重要です。市販の水も超純水製造装置の水も採水時は泡立てず,空気との接触を小さくすることが大切です。また,直接調製容器に採水するように心掛け,洗びんの使用は最小限にしましょう。洗びんの水は汚染され易い上,洗びん内壁から溶出したプラスチック可塑剤が溶け込んでいる可能性があります。(洗びんの水は頻繁に交換するようにしましょう。)なお,当然のことですが器具類は新鮮な水でよく共洗いして使用してください。

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