スケールアップによる分取条件の設定(その 1): コンベンショナルサイズでの分取可能量の見極め

分析の留意点

LCtalk68号LABより

HPLC による分取においては,太いカラムを用い,試料注入量を大きく設定すれば一度に大量の目的成分を効率的に取り出すことが可能です。しかし,分取用カラムや分取専用装置は一般に高価であり,それらを導入する際には,自分が必要とする分取量が十分得られるかどうかが最大の関心事になります。そこで,今回はコンベンショナル(通常分析)スケールから分取スケールへの「スケールアップ」の基本的な考え方について,2 回に分けて解説したいと思います。1 回目はコンベンショナルサイズでの分取可能量の見極めについての話です。

分取量の目標設定

分取の目的は「NMR や FTIR による構造解析に用いる」,「バイオアッセイにかける」,「化学合成の材料として使用する」など様々です。それら目的に応じて「できればこれくらいの分取量が欲しい」あるいは「最低限これだけの分取量が得られなければ意味がない」といった要望があるはずですから,まずはそうした目標値をしっかり持つことが大切です。その上で仮に µgオーダーの分取量で十分であるなら,おそらく分取専用装置など必要なく,通常の HPLC 装置とカラムで十分達成できるかもしれません。逆に,g(グラム)オーダーの分取量が必要となると,分取専用装置と分取カラムが必要となります。

このように,要求される分取量によって選択すべき装置やカラムが大きく変わります。過剰投資や無駄な労力を避けるためにも,まずは「最低限どれだけの分取量が必要か」を見定めた上で,分取 HPLC の検討に取り掛かりましょう。

 

「スケールアップ」とは?

はたして分取 HPLC は,自分の要求を十分に満たすだけの分取量をもたらすことができるのか ? ・・・ これを確かめるには,実際に分取スケールで試してみるのがもっとも確実なのですが,それには専用装置やカラムが必要となります。特に,これから分取 HPLC や分取カラムの導入を考えようとする場合には,事前にうまく行くかどうかの見通しがないのではリスクが大きく,不安になります。

そこで,いきなり分取スケールで考えるのではなく,まずはコンベンショナルスケールで分取できる量を算出してみて,その結果を分取スケールへと外挿し,どれくらいのサイズならどれだけの分取量が得られそうかを予想すること ・・・「スケールアップ」が考えられます。このような「スケールアップ」の前提としては,実試料中の分析対象成分濃度を測定することができるHPLC 分析条件がすでに確立しており,その時使用される移動相が分取後の処理において問題にならないものであることが必要です。

コンベンショナルサイズでの限界負荷量の見極め

試料溶液中の分析対象成分濃度と,HPLC への注入体積がわかっていれば,両者の積から絶対注入量が求められます。一例として,注入量が 10 µL および100 µL の時の絶対注入量の算出例を表 1 に示します。一般に,吸光光度検出器で測定される濃度範囲はサブmg/L から数百 mg/L 程度ですので,そのままの状態で分取を行ってもせいぜい µg 前後の量しか得られないことがわかります。1 mg(1000 µg)分取しようと考えたら,1 %(10,000 mg/L)溶液を 100 µL注入する必要があるということになります。


表1. 試料中濃度と注入体積からの絶対注入量の算出

 次に,そのままの分析条件でどこまで試料溶液中の濃度を高くできるか,および注入体積を増やせるかを確認します。その実験例を図 1 に示します。
この例は,内径 4.6 mm,長さ 250 mm,充塡剤粒子径 5 µm のコンベンショナルサイズ ODS カラムを用い,500 mg/mL のベンゼンと微量の安息香酸およびナフタレンを含む混合溶液を分析した時のクロマトグラムです。高濃度のベンゼンのピークがスケールアウトしないよう,その吸収極大を避けて 270 nm で検出しています。

 

この試験の結果,ピーク形状が維持できるのは 50 µL 注入まで,ベンゼン負荷量に換算すれば 25 mg までということがわかりました。なお,ここでは注入体積を増やして実験した例を紹介しましたが,試料濃度を高くして検討するのも有効です。ここで重要なことは「目的成分が共存成分と分離するかどうか」であり,ピーク形状が多少歪んでも検出器がスケールアウトしても必ずしも問題ではありません。そう考えれば,クロマトグラムの見栄えなど気にせず,一度にできるだけたくさんの量をカラムに負荷する方が効率的と言えます。

図1. コンベンショナルカラムを用いた試料負荷量試験の例

目標と現状との乖離の評価

コンベンショナルスケールで可能な分取量が判明したら,それを目標とする分取量と比較してみましょう。

1) 目標とコンベンショナルスケールでの分取可能量とがほぼ同じ場合
⇒ あえて分取専用装置や大きなサイズのカラムを導入する必要なし
⇒ わずかに目標に届かない程度であれば,数回繰り返して注入して分取

2) 目標値がコンベンショナルスケールでの分取可能量の10~100倍程度の場合
⇒ ラボ用分取HPLCの導入により目標を達成できる可能性あり

3) 目標値がコンベンショナルスケールでの分取可能量の数百倍以上の場合
⇒ ラボ用分取HPLC装置での対応は困難
⇒ 工業用分取LCを考えるか,クロマトグラフィー以外の分離精製法に変更

上記 2)に該当する場合は,分取用HPLC装置を検討する価値があると言えます。
次のステップでは,スケールアップの理論によりカラムと装置の選択をおこないます。その2で詳細について解説します。
スケールアップによる分取条件の設定(その2): スケールアップの考え方と,条件設定における注意点

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