分析業務の効率化や溶媒消費量の削減のため,分析の高速化が注目されています。しかし,超高速分析においても分離や再現性などの“分析の質”は維持する必要があります。超高速分析は”Prominence UFLC”と”Shim-pack XR-ODS”とを組み合わせることにより実現できますが,いくつかのポイントを抑えれば,Shim-pack XR-ODSを通常のHPLCシステムに用いて超高速分析が可能となります。ここでは,この超高速分析に移行する際のポイントについて解説します。

分析システムの最適化

 

 Shim-pack XR-ODSはカラム内でのサンプル拡散を少なくすることにより高速分析を実現しています。従って,分析システムの最適化で最初に考えることは,カラム外での拡散を抑制することです。そのため,インジェクタから検出器までの配管の内径を細くし,検出器セルについても拡散が小さい低容量セルに変更します。また,グラジエント溶離法ではカラム容量の低下にあわせ,グラジエントミキサも小容量のものを選択します。

■ 高速分析における配管や検出器セルの選択


 内径の太い配管はサンプルの拡散が大きく,ピーク分離を悪くします。Shim-pack XR-ODSを用いた超高速分析では,よりシャープなピークを得ることができますので,配管におけるサンプル拡散は本来のカラム性能に大きく影響します。そこで,オートサンプラからカラム,カラムから検出器のセル入り口までの配管はできるだけ細い配管を選択します。

 図1は,アルキルフェノン類の分析を例として,内径 0.17 mmと内径 0.1 mmの配管によるクロマトグラムの違いを示しています。

図1の分析条件

Column: Shim-pack XR-ODS (50mm×2.0mm I.D., 2.2μm)
Mobile Phase: Water/Acetonitrile (3/7,v/v)
Flow Rate: 0.5mL/min
Column Temp.: 40℃
Detection: Absorbance at 245nm
Sample: Alkylphenones

内径0.17 mmと内径0.1 mmの各配管を用いて測定したときのクロマトグラム

図1. 内径 0.17mmと内径 0.1mmの各配管を用いて測定したときのクロマトグラム

 また,表1 にはその際の理論段数の変化をまとめています。配管におけるサンプルの拡散の影響は,保持時間の短いピークほど受けやすく,溶出の早いピークでは配管でのサンプル拡散により,理論段数が50%以上も低下します。システムの配管と同様に検出器のセルもサンプルの拡散に影響を及ぼしますので,検出器セルはセミミクロセル(2.5 μL)を選択します。

表1. 各ピークの理論段数と内径0.1 mmでの理論段数を100としたときの内径0.17 mmにおける理論段数比(%)

化合物 理論段数 理論段数比(%)
0.1mm ID 0.17mm ID
1. Acetophenone 2645 1116 42.2
2. Propiophenone 3593 1513 42.1
3. Butyrophenone 4502 2034 45.2
4. Valerophenone 5498 2824 51.4
5. Hexanophenone 6628 3950 59.6
6. Heptanophenone 7181 5025 70.0
7. Octanophenone 7561 5964 78.9

■ グラジエントミキサの選択


 高圧グラジエント溶離法では,グラジエントミキサからカラムまでのシステム容量がグラジエントの遅れとしてピークの分離に影響します。 超高速分析への移行にあたっては,カラムの少容量化にあわせて,このシステム容量も少なくします。
 通常分析システムのグラジエントミキサをそのまま用いて分析すると,先端部分での濃度グラジエントの立ち上がりまでの一定組成部分の時間がカラム容量に対して相対的に長くなり,保持の弱い成分では分離に影響を及ぼします。そこで,グラジエントの遅れをカラムの小容量化に合わせて少なくするため,カラムの容量比から超高速分析システムに最適な容量のグラジエントミキサを 選択します。このグラジエントミキサの容量は,下記の計算式で求めることができます。

 VMF = VMC ×RVF / RVC
 VMF:Shim-pack XR-ODSでのミキサ容量 
 VMC:通常分析でのミキサ容量 
 RVF:Shim-pack XR-ODSの容量 
 RVC:通常分析カラムの容量



 例えば,通常分析用のシステムで1.7 mLのグラジエントミキサを使用している場合,システム全体の遅れ容量も考慮し,最も近い容量のグラジエントミキサ (Shim-pack XR-ODSの長さ 75 mm,内径 3 mmの場合) として 0.1 mLのミキサを選択します。

分析条件の移行

 通常分析の分析条件をShim-pack XR-ODSを用いた超高速分析の分析条件に移行する際には,カラムの選択,移動相流量やタイムプログラムの設定などがポイントとなります。 また,試料注入量や検出条件(レスポンスの設定)なども分析条件に合わせて変更します。

■ カラムの選択


 カラムの分離能には充てん剤の粒子径とカラム長さが関係します。Shim-pack XR-ODSは粒子径2.2 μmの充てん剤を使用していますので,下記の計算式でShim-pack XR-ODSのカラム長さが算出できます。



 LH = (dpH / dpC )×LC
 dpC: 通常分析カラムの充てん剤粒子径
 dpH:Shim-pack XR-ODSの充てん剤粒子径 (2.2 μm)
 LC:通常分析カラムの長さ
 LH:Shim-pack XR-ODSのカラム長さ
 


 例えば,通常分析で長さ 150 mm,内径 4.6 mm,充てん剤の粒子径が5 μmのカラムを用いているとき,Shim-pack XR-ODSの長さ 75 mm,内径 3 mmを選択すると同等の分離を得ることができます。

■ 移動相流量の設定

Shim-pack XR-ODSは,充てん剤の微細化により適切な移動相流量が高くなります。表2にShim-pack XR-ODSの各内径での最適な移動相流量範囲を示していますので,これを参考に圧力を考慮して移動相流量を設定してください。
表2 各内径での最適な移動相流量範囲
カラム内径 移動相流量
2.0mm I.D 0.4mL/min~ 0.5mL/min
3.0mm I.D 0.9mL/min~ 1.2mL/min
4.6mm I.D 2.0mL/min~ 2.5mL/min

■ タイムプログラムの移行


 基本的に,移動相組成は通常分析と同じものを使用します。したがって,アイソクラティック溶離法では分析時間を変更するだけです。一方,グラジエント溶離法でもタイムプログラムを再検討する必要はなく,カラム容量比と移動相流量比から簡単に算出できます。通常分析カラムとShim-pack XR-ODSとの間で保持特性の違いにより分離状態が変化した場合には,必要に応じて混合比率を微調整します。超高速分析でのタイムプログラムは,下記の計算式で容易に割り出すことができます。



 TF = TC×(VF / VC ) / (uF / uC )
 TF:Shim-pack XR-ODSでの時間
 TC:通常分析での時間
 VF:Shim-pack XR-ODSの容量
 VC:通常分析カラムの容量
 uF:Shim-pack XR-ODSでの移動相流量
 uC:通常分析カラムでの移動相流量
 


 例えば,流速1.0 mL/minで通常分析用カラム(長さ150 mm,内径4.6 mm)から流速1.2 mL/min Shim-pack XR-ODS(長さ75 mm,内径3.0 mm)にカラムを変更したとき,濃度グラジエントのタイムプログラムは次のようになります。

通常分析でのタイムプログラム

90/10 to 0/100 in 30 min
0/100 for 10 min
90/10 for 10 min end
 
XR-ODSでのタイムプログラム

90/10 to 0/100 in 5.5 min
0/100 for 1.5 min
90/10 for 2 min end
 

■ 試料注入量や検出器条件の設定


 試料注入量はカラムの断面積に比例して変更します。例えば,内径4.6 mmのカラムで10 μL注入していた場合には,内径3 mmのShim-pack XR-ODSでは4 μLを注入量として設定します。これは試料溶媒の影響を受けてピークの分離が悪くなることを避けるためです。試料溶媒が移動相よりも溶出力が弱い溶液の場合にはもう少し大量に注入することも可能です。

各レスポンスでのクロマトグラム

図2 各レスポンスでのクロマトグラム

 検出器条件の設定では,ピーク幅に合わせた検出器のレスポンスの最適化がポイントとなります。レスポンス(時定数)とは,検出器信号のデジタルフィルタ処理によりノイズを低減させる機能のパラメータで,大きなレスポンスを設定するとS/Nがよくなる反面,シャープなピークでは分離を悪くする可能性があります。
 図2はレスポンス20 msec,100 msec,1000 msecでのクロマトグラム,表3は各レスポンスでのS/N比とその20 msecに対する比を示しています。さらに,表4にはS/N比と同様に分離度の変化を示しています。
 レスポンスを大きくするに従いS/N比は向上しますが,その反面,シャープなピークほど分離度が悪くなります。そのため超高速分析へ移行するときは,最初に50~100 msecのレスポンスを設定してカラム本来の分離を確認し,必要な分離が得られる範囲でS/N比を考慮しながら大きなレスポンスを設定します。

表3 各レスポンスで分析したときのピークのS/N比
(括弧内は20 msecのS/N比を1 としたときの倍率)

 

ピーク# 20 msec 50 msec 100 msec 500 msec 1000 msec
1 26.7(1) 38.6(1.4) 63.7(2.4) 112.2(4.2) 110.5(4.1)
2 24.7(1) 36.0(1.5) 59.1(2.4) 108.3(4.4) 110.0(4.5)
3 21.7(1) 32.4(1.5) 51.5(2.4) 99.4(4.8) 102.1(4.7)
4 20.4(1) 30.5(1.5) 48.5(2.4) 98.7(4.8) 100.2(4.9)
5 17.9(1) 26.8(1.5) 42.4(2.4) 91.0(5.1) 95.2(5.3)
6 14.4(1) 21.9(1.5) 34.5(2.4) 79.2(5.5) 88.2(6.1)
7 12.2(1) 18.4(1.5) 29.9(2.4) 70.1(5.7) 81.8(6.7)


表4 各レスポンスで分析したときのピーク分離度
(括弧内は20 msecの分離度を100 %としたときの比率)

 

ピーク# 20msec 50msec 100msec 500msec 1000msec
1
2 3.078(100) 2.918(94.8) 2.882(93.6) 1.682(54.6) 1.042(33.9)
3 3.191(100) 3.075(96.4) 2.990(93.7) 1.834(57.5) 1.152(36.1)
4 3.894(100) 3.797(97.5) 3.684(94.6) 2.377(61.0) 1.544(39.7)
5 4.831(100) 4.710(97.5) 4.600(95.2) 3.167(65.6) 2.130(44.1)
6 5.609(100) 5.538(98.7) 5.461(97.4) 4.043(72.1) 2.840(50.6)
7 6.360(100) 6.391(100.5) 6.303(99.1) 4.986(78.4) 3.672(57.7)

以上のポイントを基に,合成着色料12成分の分析を超高速LCへ移行した例を図3に示します。なお,Prominence UFLCはこのような高速分析のためのポイントをあらかじめ最適化したシステムです。(Ku)

  Column: Shim-pack VP-ODS
(150 mm×4.6 mm I.D., 4.6 μm)


Mobile Phase:
A : 50 mM 酢酸(アンモニウム)緩衝液 (pH 4.7)
B : 50 mM 酢酸(アンモニウム)緩衝液 (pH 4.7)
/アセトニトリル (1/1)

90/10 to 0/100 in 30 min
0/100 for 10 min
90/10 for 10 min and end


Flow Rate: 1.0 mL/min

Column Temp.: 40 ℃

Detection:
Absobance at 300-600 nm (Maxplot)
 
  Column: Shim-pack XR-ODS
(75 mm×3.0 mm I.D., 2.2 μm)


Mobile Phase
A : 50 mM 酢酸(アンモニウム)緩衝液 (pH 4.7)
B : 50 mM 酢酸(アンモニウム)緩衝液 (pH 4.7)
/アセトニトリル (1/1)

90/10 to 0/100 in 5.5 min
0/100 for 1.5 min
90/10 for 2 min and end


Flow Rate: 1.2 mL/min

Column Temp.: 40 ℃

Detection:
Absobance at 300-600 nm (Maxplot)
図3. 合成着色料分析における超高速LCへの移行例>

補足:超高速分析への移行例

項目 通常カラム (150 mm×4.6 mm I.D. 5 μm)
カラム容量2.5 mL
Shim-pack XR-ODS (75 mm×3.0 mm I.D. 2.2μm)
カラム容量0.5 mL
配管 内径0.3 mm 内径0.1 mm
ミキサ容量 1.5 mL(ループ含む) 0.3 mL(ループ含む)
( =1.5×(0.5/2.5) )
移動相流量 1.0 mL/min 1.2 mL/min
グラジエント
プログラム
A/B=70/30 at 0 min
A/B=30/70 at 30 min
A/B=70/30 at 0 min
A/B=30/70 at 5 min

( =30×(0.5/2.5)/(1.2/1) )
カラム温度 40 ℃ 40 ℃
レスポンス 500 ms 100 ms
注入量 10 μL 4 μL
( =10×(3.0/4.6)2