LC-MSのはなし その4「分離およびイオン化に重要な移動相」

LCMS関連

LCtalk57号INTRO

 大気圧イオン化法(API)で用いられる分析条件,特に分離およびイオン化に重要な移動相について解説します。

●「LC-MSの分析条件」

 LC分析では目的成分の物性を考慮して,分配(順相,逆相),サイズ排除,イオン交換などさまざまな分離モードが利用されています。 試料の特性や求める分離の度合いなど,目的に応じて固定相の種類や移動相(水,有機溶媒,pH調整試薬・緩衝液)が選択されます。
 一方でLC-MS API においては,低~中極性(APCI:大気圧化学イオン化),中~高極性(ESI:エレクトロスプレー)の有機化合物が分析対象となりますので,これら化合物の分離・イオン化法に適している逆相モードが多用されます。

 API はスプレー方式のイオン化法ですので,安定的な分析のためには移動相は, 揮発性 である必要があります。 下にAPI で使用できる移動相をまとめました。 基本移動相である水,メタノール,アセトニトリルの他,pH調整のための酢酸などが良く用いられます。 緩衝液としては,揮発性塩である酢酸アンモニウムやギ酸アンモニウムが使用されます。 さらに,APCI では反応イオン生成のためプロトン性溶媒が必須であり,ESI においても極性・イオン性化合物を溶解する溶媒は極性溶媒であることから,API に 極性溶媒 は必須と言えます。

API で使用できる移動相
基本的な移動相溶媒
・メタノール,エタノールなどのアルコール類
・アセトニトリル
・水 (必要が有ればpH調整)


pH調整試薬として(揮発性,~10mM程度まで)
・酢酸,ギ酸,TFA(トリフルオロ酢酸)  (酸性)
・アンモニア水  (塩基性)
・酢酸アンモニウム,ギ酸アンモニウム  (緩衝液)


比較的揮発性を有するイオンペア試薬
・パーフルオロカルボン酸(C2~C8) (塩基性化合物の保持)
・ジブチルアミン,トリエチルアミンなど (酸性化合物の保持)
※移動相を変えた後も,システム内に残る場合があるので注意が必要
使用可能な有機溶媒
・DMSO, DMF, THF, アセトン, エステル, クロロホルム, ベンゼン, ヘキサン
主として”基本的な移動相溶媒”が存在すれば,これら有機溶媒が含有していても問題は無い(ただし含有量の増加に伴ってイオン化効率は低下する)

 これに対して,LC分析で良く使われるりん酸緩衝液は不揮発性の塩を形成するため,インタフェースに析出し物理的な障害を与える恐れがあります。 APCI では針電極の汚染の原因となるほか,ESI では帯電液滴の微細化を妨げ感度低下をもたらすことが知られます。

 またヘキサンのような非極性溶媒は,APCI における試料分子のイオン化には殆ど寄与せず,これら移動相を使う条件はそのままでは適用できません。

● 「LC分析からLC-MS分析へ」

 LCからLC-MSへ分析を移行する場合,通常はそれまでの移動相条件を参考にして,pH は同程度のまま揮発性塩に変更する,非極性溶媒に極性溶媒を混合する などを検討します。

 また,LC-MSでは使用できる移動相が制限されるので,用いるカラムの種類を再検討することもあります。

  例えば,逆相モードのC18(オクタデシル)カラムを標準に考えると,保持を強めるためにC30を,弱めるためにC8やC4を,分離選択性を出すために PhenylやCN などを試します。 溶出時間の差が大きい場合やピークがブロードな場合は,グラジエント溶出を行います。   なお,API に適した移動相・塩濃度であれば,サイズ排除,イオン交換モードも適用可能です。

● 「感度良く検出するために」

ESI は溶液中でイオンとして存在する化合物を,高電場に噴霧することで気相に取り出すイオン化法です。 高感度を得るためには液滴からのイオンの放出の効率向上が重要で,より微細な液滴を得る,液滴の表面張力を減らす,液滴pHの最適化などがあげられます。 特に, 移動相のpH が感度に影響し,例えば塩基性化合物を正イオンとして検出する場合,酸性試薬(AH)の添加は下式の平衡が右へ進め,感度向上が期待されます。 一般に試料のpKaより1~2低いpHの移動相が良いとされます。

  M-NH2+ AH →[M-NH3]+ A
反対に酸性化合物では塩基性試薬(B)の添加,または試料のpKaより1~2高いpHの移動相を用います。
M-COOH + B →[M-COO]+ BH
イオン性官能基を持たない中性化合物の場合,酢酸アンモニウムなどの揮発性塩類を添加することで,付加イオンとしてイオン化効率が上がる場合があります。
  M + BH[M+BH]
M + A[M+A]
この他,脱溶媒を促進する目的で有機溶媒比率を上げることも効果的です。 これらの添加がLC分離に影響を与える場合は,ポストカラムで溶液を添加することも行われます。

APCI は,試料分子(M)とコロナ放電により移動相溶媒から生ずる反応イオン(BH+)との間でプロトンの授受が起こり,試料Mがイオン化される手法です。 Mのプロトン親和力がBのそれより大きいと,BからMへプロトンが移動します。 移動相と試料のプロトン親和力の差が感度に影響すると言えます。

  M + BHMH+ B
プロトン親和力が大きいアミノ基・アミド・カルボニルを有する化合物では正イオンモードが,プロトン親和力が小さいカルボキシル基・フェノール性水酸基を有する化合物では負イオンモードが適しています。 先にも述べましたが,APCI では プロトン性溶媒 が 必須で,メタノール/水系の方がアセトニトリル/水系よりイオン化効率が高い傾向にあります。 APCI は順相,サイズ排除でも使用でき,流量も0.2~2mL/minの範囲でイオン化も可能であるほか,ESI と比較すると塩の影響を受けにくいといった特徴があります。
 以上述べましたように,LC-MSでは目的成分のイオン化とLC分離を考慮し,適切な条件を選択することが重要です。(Ym)


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