サイズ排除クロマトグラフィーの話

分析基礎

LCtalk55号INTRO改訂版

「サイズ排除クロマトグラフィー」や「GPC」という言葉はよく耳にしますが,いったいどんな情報が得られるのか,もう一度,初心に返って確認をしてみましょう。

● サイズ排除クロマトグラフィー(SEC:Size Exclusion Chromatography)

サイズ排除モードの原理

 サイズ排除クロマトグラフィーは,HPLCの分離モードのひとつです。 利用するカラム内の充てん剤には,細孔(ポア)が数多く存在します。 大小の溶質分子がカラム内を流れていく際に,小さい溶質分子は充てん剤細孔(ポア)の奥まで浸透しながらゆっくり流れ,大きい溶質分子は細孔に入らないでさっさと流れていきます。 その結果,カラムからの溶出は大きな分子が速く小さな分子は遅くなり,分子の大きさによるふるい分けが行われます。 これがサイズ排除クロマトグラフィーの分離原理です。

 サイズ排除クロマトグラフィーには大きく分けると2種類あり,疎水性充てん剤と非水系(有機溶媒)移動相を用いて合成高分子の分子量分布測定を行う手法を「GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー:Gel Permeation Chromatography)」と呼びます。 また,親水性充てん剤と水系移動相を用いて,多糖類やたんぱく質などの水溶性高分子の分離分取あるいは分子量分布測定を行う手法を「ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC:Gel Filtration Chromatography)」と呼ぶことがあります。

● 分子量分布測定で得られる情報は?

 高分子物質の分子量を測定する手法としては,光散乱法,浸透圧法,粘度法などがあり,これらでは分子量の平均値を得ることができます。 しかし,多くの高分子物質は,単一の分子量を持つではなく,複数の分子量を持つ同族体の集合です。 平均分子量が同じ合成高分子でも,その分子量分布が異なると,下表に示しているような高分子の諸物性に違いを生じることがあります。

 これに対してサイズ排除クロマトグラフィーでは,どのくらいの分子量のものがどのくらい含まれているかという分子量分布情報を得ることができます。 従って高分子の諸物性の違いを見極める目的で品質管理などに広く用いられています。

各種平均分子量と相関のある合成高分子物性,測定手法(GPC応用データ集より)
  相関のある高分子の物性 測定手法 (絶対値)
数平均分子量(Mn) 引っ張り強度,衝撃強度,硬度 浸透圧法,蒸気圧法
重量平均分子量(Mw) 脆性 光散乱法,超遠心法
Z平均分子量(Mz) たわみ,剛性  

 平均分子量には,「数平均分子量(Mn)」,「重量平均分子量(Mw)」,「Z平均分子量(Mz)」,「粘度平均分子量(Mv)」などがあります。

 数平均分子量(Mn)は,1)式のように高分子の総重量を高分子の総数で除して算出します。

数平均分子量


 また,分子量の大きい高分子の平均分子量への寄与を重視したのが重量平均分子量(Mw)です。2)式

重量平均分子量

  W : 高分子の総重量
  Wi : i番目の高分子の重量
  Mi : i番目の溶出時間における分子量
  Ni : 分子量Miの個数
  Hi : i番目の溶出時間における高さ

 なお,サイズ排除クロマトグラフィーで求められる平均分子量相対的な値です。 絶対的な値を求めるときはMnは浸透圧法や蒸気圧法,Mwは光散乱法,超遠心法を用います。

 サイズ排除クロマトグラフィーにおけるピーク頂点の分子量は,MnとMwの間を変化します。
 また,分子量分布が広いか狭いかを判定するパラメータとして分散度(Mw/Mn)があります。 その値が1.0に近い値であれば分布が狭く,大きくなると分布が広くなることを意味しています。

● 較正曲線とは?

 高分子の溶出容量(Ve)と分子量(M)との間には,一般的に次式が成立します。


  log M = b-cVe ( b,c:定数 )


 この関係をグラフに表したものが較正曲線です。 縦軸に分子量の対数,横軸に溶出容量(保持時間)をとり,あらかじめ分子量が分かっている分子量マーカーを用いて溶出容量を求めて較正曲線を作成します。 充てん剤の細孔よりも大きな分子は,一様に素通り(排除)されてしまいます。 これを「排除限界」といいます。 逆にあるサイズよりも小さい分子は細孔内に完全に浸透しきってしまうため,ほぼ同じ位置に溶出します。 これを「浸透限界」といいます。 排除限界と浸透限界の間が較正曲線の有効な領域であり,この領域では大きい分子ほど早く,小さい分子ほど遅く溶出します。

 較正曲線の斜め領域の傾きが大きいものは,充てん剤の細孔が大きく,大きな分子まで測定対象になります。 傾きが小さなものは,細孔が小さく,小さな分子が測定対象になります。

 また,較正曲線の傾きが小さいほど分子量の少しの差で溶出容量に差が生じるため,対象試料分子が2種類のカラムで測定対象に入るときは較正曲線の傾きの小さなカラムを使う方が,より正確な分子量を得ることにつながります。

較正曲線の傾きと分離の関係
"較正曲線の傾き"と"溶出容量の差"

● カラムの選び方は?

 サイズ排除クロマトグラフィー用のカラムは,充てん剤の細孔径が異なる(排除限界分子量が異なる)複数のカラム群(シリーズ)として販売されています。 較正曲線を見て測定したい分子量範囲に適切なカラムを選択します。
 試料の分子量分布が広範囲に及んでいる場合は,同一シリーズカラムからそれらをカバーできる数本を選択し,直列に接続して使用します。
 あるいは,最初から細孔径の異なる充てん剤を混合した(ミックスゲル)カラムを使用する場合もあります。 測定対象成分の分子量範囲が不明な場合や測定対象成分の分子量範囲が非常に広い場合に利用されます。

カラムと較正曲線
カラムと較正曲線
 

 また,試料に含まれる大きな分子に対してカラムの充てん剤細孔が小さい場合は排除が起こり,排除限界付近でピークが立ち上がる現象が見られることがあります。 この場合は,もう少し細孔の大きいカラムを選択することが適切です。

カラムの選択
カラムの選択 (較正曲線の斜めの
部分を利用できるカラムを選びます)


 サイズ排除クロマトグラフィー用カラムの多くは,使用できる溶離液が限られています。 使用可能な溶離液以外の溶離液を用いると,充てん剤が不可逆的に膨潤するなど物理的に劣化させる恐れがありますので,あらかじめ測定試料がどんな溶媒に溶解しやすいかを調べておき,その溶媒を溶離液にできるカラムを選ぶことが必要です。

● 注意すべき点は?

 サイズ排除クロマトグラフィーは,冒頭に記述したように分子の大きさでふるい分ける手法です。 でも分子の大きさが同じでもその構造が「かさ高く疎な場合」は分子量は小さく,「密な場合」は分子量が大きい,ということがあります。 溶解させる溶媒の種類によっても構造が拡がったり,密になったりすることがあります。 つまり,溶出位置だけでは分子量を言える訳ではありません。
 従って,分子量マーカー(あらかじめ分子量がわかっている標準試料)と測定対象試料の物質が異なっていると,分子量ならびに分子量分布は正確には計算できません。 最も都合が良いのは,測定対象試料の分子量マーカーがあることですが,無い場合は,できるだけ構造が似ている分子量マーカーを使う,あるいはQファクタ(単位鎖長さ当たりの分子量)など補正係数を掛けて,適正な値に近づる工夫がされます。
 さらに,試料成分と充てん剤との間に相互作用(吸着,イオン交換他)があると正しい分子量分布を知ることができません。 この現象は水系のゲルろ過クロマトグラフィーでしばしば発生します。 このような場合は相互作用を減少させるために塩類を溶離液に添加することが行われます。
 サイズ排除クロマトグラフィーの原理は比較的易しいのですが,実際の分析や結果を解析する際には,いろいろ奥深いものがありますね。 (Mi,Mm)

GPCのデータ例については,GPC分析システム応用データ集 (C190-0032,81p) もご参考ください。
GPC分析システム応用データ集


合成高分子の諸物性評価には,GPCを用いた分子量分布測定が幅広く用いられています。
 → GPCシステム 製品紹介


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