日常分析の留意点・・・イオンクロマトグラフ編

LCtalk54号LAB
 前号では,イオンクロマトグラフを用いた分析における留意点として,コンタミネーションとカラムの取り扱いについてお話しました。 今回は,イオンクロマトグラフ分析における前処理についてお話します。

● 試料の前処理

 試料中の目的成分を,感度よく安定に分析するためには,共存成分の影響を極力抑え,流路の目詰まりやカラムの劣化を避けるような前処理が必要です。 以下にイオンクロマトグラフ分析における代表的な前処理方法をご紹介します。

■ろ過
 カラムや流路の目詰まりを防ぐ最も一般的な手法で,細孔径0.2~0.5μmのディスポーザブルのメンブランフィルタを用います。 このフィルタには,種々のものが発売されていますが,無機イオンのコンタミネーションの少ないイオンクロマトグラフィー用がありますので,これをお使いください。 不溶解物が大量に存在する場合には,あらかじめ遠心分離により不溶解物を沈降させてからろ過すると効率良くろ過が行えます。

■限外ろ過
 メンブランフィルタで取り除けないようなタンパク質等の有機物を除去するのに便利です。 カット分子量は,おおよそ5,000~100,000のものがあります。 ディスポーザブルタイプのものが市販されており,大きく分けると,シリンジで加圧するタイプと遠心分離器にセットして使うタイプがあります。

■希釈
 通常,イオン交換水または移動相溶液により希釈します。 当然,希釈に用いる溶液には目的成分があってはいけないので,必ずブランクとして測定しておきましょう。 また,希釈倍率については,使用するカラムの負荷量や,定量可能範囲を考慮して決める必要があります。

50~100倍希釈溶液を測定して様子を見ることも,カラムに不用意なダメージを与えない有効な方法です!

■溶解・抽出
 試料が固体や有機溶媒の場合,水溶液中に抽出,または溶解し,イオン化させないとイオンクロマトグラフ分析での分析は困難です。 また,難水溶性の固体試料の場合は,一度有機溶媒に溶解したのち水抽出します。

 

未知試料を測定する場合,試料注入時に移動相中で析出が起こらないことを,事前に混合してみて確認しましょう!

■ミニカラム
 イオン交換樹脂や疎水性充てん剤を充てんしたミニカラムにより,不要な物質を化学的に取り除く方法です。 大きく分けると次の5タイプがあります。(組み合わせて使用する場合もあります)
1)  H形強陽イオン交換樹脂
・・・陽イオンを取り除く時に使用
2)  OH形強陰イオン交換樹脂
・・・陰イオンを取り除く時に使用
3)  疎水性充填剤
・・・疎水性物質を取り除く時に使用
4)  Ag形強陽イオン交換樹脂
・・・ハロゲンイオンを取り除く時に使用
5)  Ba2+形強陽イオン交換樹脂
・・・硫酸イオンを取り除く時に使用
これらの前処理を行う際,必ず添加回収率試験を行いましょう!
ミニカラムからの溶出物で,思わぬ位置にピークが出たりベースライン変動が発生したりすることもありますのでブランク測定を行いましょう。

 

● 標準溶液の調製

■保存容器
 右図は,サプレッサー方式のイオンクロマトグラフにより,試料バイアルに移動相溶液(6mM メタンスルホン酸)を入れて連続繰り返し注入した際のナトリウムイオンピークの面積値変化を表したものです。 試料バイアルはガラス製とポリエチレン製を用い,使用前には精製水に漬け置きして洗浄しました。 ガラス製容器では経時的にその濃度が増加しました。

 このように,酸性水溶液とガラスが接触すると,ガラスからナトリウムイオンなどが溶出し、分析に影響することがあるので注意が必要です。 特に高感度測定においては,試料をガラス製器具と長時間接触するのはなるべく避けるべきでしょう。 試料保存用の容器としては,ポリプロピレンやポリエチレン製のものが広く使用されていますが,どのような材質の容器であっても,新品のものは洗浄してからご使用ください。

 

バイアルから溶出するナトリウムイオンの経時変化

■試料溶媒
 マグネシウムイオンやカルシウムイオンは,塩基性水溶液中で水酸化物の沈殿を生成しますが,これはpH調整をしていない精製水中でもゆっくりと起こり,その結果時間が経つにつれて濃度が減少していきます。 これを防ぐには,希薄な酸の水溶液で調製することが効果的です。 ただし,ピークの広がりを防ぐため,標準溶液の酸濃度は移動相の酸濃度より低くしたほうが良いでしょう。 なお,市販の標準溶液は多くの場合0.1~1M程度の硝酸または塩酸溶液となっていますので,これらを希釈して調製する場合は,希釈率が小さければ精製水で希釈しても問題ありません。


 また,試料溶媒を酸性にすることは,競合するHイオンが測定対象イオンの容器や装置への吸着を抑制することになり,コンタミネーションを防ぐという相乗効果もあります。 陽イオンの高感度測定を行う場合は,希薄な酸の水溶液で調製するこをお奨めします。   (Nt)