LC-MSのはなし その2「イオン化法」
LCtalk47号INTRO
前号では,(1)マススペクトルから分子量・構造情報が得られる,(2)選択性の高さにより夾雑物の影響を回避した定量分析が行える,(3)難揮発性あるいは熱不安定な化合物の分析が可能など,LC-MS分析の概要とその優れた特性について述べました。 本号では,LC-MSのイオン化法について解説します。
● 「LCとMSの結合」
GC-MSが複合分析装置として成功し,LCとMSのオンライン結合へ期待が高まりましたが,LC-MSが汎用に使われ始めたのはごく最近です。
質量分析計は目的成分を気相中にイオンとして取り出し,このイオンを高真空下で検出する装置です。 GC-MSの場合はGC部分で目的成分はガス化していますので,MSにそのまま導入することができます。 一方LC-MSでは,LCを単純にMSに接続しても液体である移動相が気化し,大量のガスがMS内に導入され,真空度の低下により目的イオンが検出部まで到達できなくなります。
LCからの溶出液がわずか1 mL/minの流量でも これが気化すると,溶媒の種類によっては約1000倍の体積になり,膨大なガス量になってしまいます。 LC-MSでは,いかに移動相を取り除くかが重要なポイントになります。 これまで様々なインターフェイスが開発されてきましたが,感度,安定性,使い勝手等に問題を残していました。
● 「大気圧イオン化法」
近年,大気圧イオン化法(API ; Atmospheric pressure ionization)の登場で,インターフェイスが大きく改良されたことにより,安定的にイオンを得られるようになりました。 名前の通り大気圧下でイオン化するのが特徴で,溶媒を真空の外で除くという点で非常に有効です。 現在APIには主に2つのインターフェースが有ります。
1つは,
エレクトロスプレー法(ESI ; Electrospray ionization)
で, イオン性・高極性化合物に有効なイオン化法です(図1)。 ESI では試料溶液は,先端に3~5 kV程度の高電圧を印可したキャピラリに導かれます。 キャピラリの外側から霧化ガス(ネブライザーガスとも呼ばれます)を流しスプレーすることで,印可した電圧と同符号の細かな帯電液滴が作られます。 帯電液滴は移動の過程で溶媒の蒸発・表面電場の増加が進み,電荷同士の反発力が液体の表面張力をこえると分裂します。
蒸 発と分裂を繰り返すことにより,微細な液滴になり,最終的には試料イオンが気相中に放出されると考えられています(イオン蒸発)。 ESI は最もソフトなイオン化法で,高極性,難揮発性,熱不安定化合物に適用が可能です。 生じるイオンも主にプロトン化分子(脱プロトン化分子)で,複雑なフラグメントイオンが生じませんので,簡便に化合物の分子量が得られます。 また化合物によっては多価イオンが生じるため,例えば分子量10,000の化合物であっても,20価のイオンはm/z501,10価のイオンはm/z1,001となり小型の質量分析計でも検出できます。 これら多価イオンから,コンピュータ計算により分子量の推定も可能です。 ESI は天然物,生体高分子,医薬品などの分析にひろく用いられています。

もう1つは
大気圧化学イオン化法(APCI ; Atmospheric pressure chemical ionization)
で,GC-MSのCIと同様,化学イオン化法の一種です(図2)。 ESIと似た構造のインターフェースですがイオン化の原理が異なり,主に低・中極性の化合物に適しています。 APCIでは,試料溶液をヒーター中(400℃程度に加熱)にN2ガスなどを用いてスプレーし,溶媒と試料分子を気化させます。 溶媒分子はコロナ放電によってイオン化され,安定した反応イオンを生じます。
この反応イオンと試料分子の間でプロトン授受が起こり(イオン分子反応),試料分子はプロトン付加あるいはプロトン脱離を起こしイオンとなります。 このイオン分子反応にはプロトン移動反応,求電子付加反応などいくつかのパターンが知られています。 ESIと同様に,主としてプロトン化分子(あるいは脱プロトン化分子)が検出され,脂溶性の高い化合物,溶液中でイオン化しない化合物の分析に用いられます。


図3にイオン化法と分析対象物の関係を示します。 HPLC自体,非常に多くの化合物を測定対象としており,イオン化法としてESIとAPCIを使い分けることで,広範な有機化合物をカバーできるようになりました。
(Ym)
補足キーワード;LC/MS, 液体クロマトグラフ質量分析装置

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