オートサンプラの注入方式(全量注入方式と部分注入方式の比較)

LC用オートサンプラ(オートインジェクタ)には,大きく分けて2種類の注入方式があります。 ひとつは,試料びん(バイアル)から計量した試料の全量を注入する「全量注入方式」,もうひとつは,試料びんから計量した試料の一部をサンプルループに充填し,注入を行う「部分注入方式」があります。 ここで,それぞれの注入方式について説明します。

(1)全量注入方式について ~SIL-HTのケース~

SIL-HT

全量注入方式では,試料びんからサンプリングニードルを介して計量した試料の全量をインジェクションポートから注入します。 流路図(図1)の高圧バルブ(右側のバルブ)の1番からサンプルループを経由して4番までの流路に漏れがない限り,計量した試料の全量が分析流路に注入できることがわかります。 そのため,試料計量部の計量精度を良くすれば,それにつれて,注入精度および,注入直線性が向上します。 また,サンプルループ,サンプリングニードルなど試料と接する流路部の内面は,分析時間中は常時移動相が高圧で流れていますので,注入した試料が流路内に残ることによるクロスコンタミネーションも低減することができます。 表1に全量注入方式による分析結果を示しますが,この表から,注入量が少ないときでも良好な再現性が得られ,各注入量での直線性も得られていることがわかります。

図1.SIL-HTの流路

 

注入量 面積値 再現性(%RSD) 誤 差(%)
1μL 308461 0.43% -1.50%
2μL 619707 0.24% -1.06%
5μL 1568067 0.12% 0.15%
10μL 3131589 0.05% 0%
表1.SIL-HTの注入面積値の直線性と再現性
(試料:ナフタレン)

 

(2)部分注入方式について SIL-10AFのケース

部分注入方式では,試料びんからサンプリングニードルを介して計量した試料の一部をサンプルループに充填し,これを分析流路に注入します。 部分注入方式の流路(図2)では,インジェクションポートから計量シリンジまでの流路が移動相流路と分かれているため,大きな流路圧力はかかりません。

そのため,部品交換などのメンテナンスが簡単で,また計量部がシンプルな構造にできる利点があります。

また,試料溶液を用いて試料びん中で希釈混合する自動前処理作業には,構造上このタイプの方が圧倒的に有利になります。

図2.SIL-10AFの流路

SIL-10AF

 さて,部分注入方式では,試料を試料びんから計量するとき,洗浄液が満たされたFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)チューブを介して,計量シリンジで計量しています。 このときのチューブの状態を図3に示します。 計量時およびサンプルループへの充填時に,試料びんから吸い出された試料溶媒はチューブの中を動きますが,このときにチューブ内の洗浄液と試料の界面で混合し希釈が起こることが考えられます。 この影響を小さくするために試料と洗浄液の間に空気を挟みこんでいます。<br>
 さらに部分注入方式では,分析流路に注入する試料注入量に加え,注入量+α(エクセスボリューム)の量を試料びんから吸い出す工夫を行っています。 このエクセスボリュームを多くするほど,希釈度合いを低減することが可能です。 表2にマニュアルインジェクタでの試料注入時の注入面積値を基準にしたときの希釈度合いを,表3に全量注入方式と部分注入方式での面積値の違いを示します。<br>

 部分注入方式では,全量注入方式あるいはマニュアルインジェクタと比較した場合,注入面積値がやや小さくなる傾向が見られます。

 

  SIL-10AF
部分注入方式
SIL-HT
全量注入方式
1 3033842 3115424
2 3023367 3118628
3 3032162 3120098
4 3037083 3117847
5 3018029 3117300
6 3026067 3115781
7 3028584 3117899
8 3023704 3116096
9 3025484 3115593
10 3037102 3113487
平均値 3028539 3116815
誤差 97% 100%
%RSD 0.21% 0.06%

表2.注入方式の比較(試料:ナフタレン)

 

図3.部分注入方式での液の状態

表3.マニュアルインジェクタと部分注入方式の
注入面積値の比較(試料:ナフタレン)

(3)まとめ

試料注入方式として,「全量注入方式」と「部分注入方式」を比較すると,「全量注入方式」のほうが,より良い注入精度が得られることがわかりますが,流路の気密性,計量機構の正確さが重要になります。  「部分注入方式」では,精度は劣りますが,移動相が流れる流路のように高圧がかかる部分が少ないためメンテナンスが容易になるなどの利点があります。

このように,各注入方式には長所/短所があるため,使用目的に応じて選択することも重要です。
最後に,表4に注入方式間での長所/短所をまとめましたので参照ください。
 

 

(Tm)

注入方式 長所 短所
全量注入方式
  • 試料注入時の正確さ,注入直線性が優れている
    (注入量の正確さの誤差は,50μL計量時で,1%程度です)
  • 試料びんから計量した試料を全量注入するため,試料ロスがない
  • 計量部の容量が小さいため,mL単位の大量注入では,注入時間が長くなる
  • コストがやや高め
部分注入方式
  • 試料計量部に高耐圧部品が少ないため,部品交換などのメンテナンスが容易である
  • コストが安い
  • 試料計量部はおもにシリンジを用いているため,部品を交換することでμLからmL単位までの注入量に対応できる
  • 注入正確さが全量注入方式より悪い
  • 試料注入時にロスする試料量が多い