セル部温度制御機能付き検出器による分析信頼性の向上

近年分析信頼性への要求が高まる中で,検出の温度影響低減についても取り組みが図られています。 一般に環境温度変化を受けやすいことが知られている屈折率検出器や電気伝導度検出器など検出器のみならず,島津は業界に先駆けて蛍光検出器やUV検出器にもセル部温度制御機能がついたものをご提供しています。

(1)セル部温度制御機能付き蛍光検出器

蛍光検出器では,セル部の温度制御機能は信号の信頼性の向上に非常に重要です。それは蛍光が温度消光現象を持つためです。

[蛍光の温度消光現象]
蛍光は温度が上昇すると,分子間衝突が増大し,無輻射遷移失活の度合いが増大するため,その強度が低下する特性があります。 その特性の程度はサンプルによって異なり,常温付近で1℃の温度上昇につき約5%も蛍光強度が低下するものもあります。
従って,検出器のフローセル部へ流入する液温が高くなるほど,蛍光強度が低下します。 このため,室温の変化がある場合には,蛍光強度が変化し,その結果,サンプルの定量性,再現性に影響を与えます。

RF-10AXL superのフローセル温調機構

[温調セル付き蛍光検出器の構成]
しかし検出器のフローセル部へ流入する液温を一定温度に保持することで,これらの問題は大幅に低減することができます。
ここではセル部温度制御機能を持つRF-10AXL Superのフローセル部の構成を図1に示します。
フローセル部上流側に熱交換器を設けて,これをペルチェ素子およびヒータで加熱または冷却して一定温度に温調します。 この熱交換器にはSUSパイプが埋め込まれており,カラムからの溶出液はこのパイプを通過する間に一定温度になり,フローセル部へ導入されるしくみです。
また,蛍光検出に用いられる光電子増倍管も,通常の電子部品(抵抗やコンデンサなど)に比べて,周囲温度の変化により感度および暗電流が影響を受け易いという特性があります。 ホトマルの温度係数は,個体差があることからRF-10AXL Superでは,予め温度係数の小さい光電子増倍管をセレクトして使用しています。 さらに,RF-20Axsでは光電子増倍管の周囲の温調も行っています。

[液温の一定温調による効果]
次のデータは,アクリジンをサンプルとして,液の一定温調ありの場合(図2)となしの場合(図3)のクロマトグラム例を示しています。 一定温調なしの場合,室温が5℃変化するとピーク面積値は -17%変化していますが,一定温調ありの場合には,わずか0.64%の変化に抑えられており,蛍光強度の温度係数が大きなサンプルでも安定的な定量分析が可能になることがわかります。

(2)セル部温度制御機能付きUV検出器

UV検出器では,セル部温度制御機能はベースライン安定性と信号の信頼性の向上に有用です。
一般的に環境温度の変化は吸収スペクトルに変化を与えます。 特に酸などで,温度により解離状態が変化する場合(化学平衡がシフトする)は,吸収スペクトルは変化しやすくなります。 一般的に吸収帯は低温で微細構造を持ち,高い温度ではスペクトルの分解は悪くなります。 また吸光度は温度が上昇すると低下するケースが多いです。

[ベースラインの安定性]
より多くの成分を検出するためにUV短波長領域でUV検出器を使用されるケースが増えていますが,短波長になるほど移動相自身の吸収も一般的に増加します。 この移動相の吸収スペクトルが温度で変化し,波長方向へシフトするので,特に吸収傾斜の大きな波長で検出している場合には,ベースラインが著しく不安定になります。 SPD-20A/20AVなどセル部温度制御機能付きUV検出器はセルに流入する液温を一定に制御するため,移動相の温度によるスペクトル変化を防ぎ,吸収傾斜の大きな波長でも安定した分析が可能です。

移動相:20mMリン酸Na緩衝液pH6.8
流速:1.0 mL/min, 検出波長:210nm

[信号の信頼性]
サンプルの吸収極大における吸光度値が温度により変化するため,信号の信頼性の点からもセル部の温調は有効です。 また,一波長で多成分を分析する場合,サンプルによっては吸収極大ではなく吸収傾斜で検出することになりますが,サンプルのスペクトルが温度で変化し波長方向へシフトするケースがあり,吸収極大で測定する場合に比べて,温度変化によるピーク高さや面積に変化が起き易くなります。 こういう場合にはさらに有効です。

セル部温度制御機能付き
蛍光検出器RF-20Axs

セル部温度制御機能付き
UV検出器SPD-20A/20AV