はじめに

 理論段数(N:Number of theoretical plate)はカラムの性能・効率を判断する指標の一つであり,1)式で表されます。

式1 ・・・1)  tr:保持時間, W:ピーク幅

 このピーク幅Wは,ガウス型ピークにおいてはピーク接線のベースライン切片であり,13.4%高さのピーク幅になります。
 さて,計算の簡便化や,ガウス型ではないピークヘの対応,などのために,実際の分析現場では次に示すいくつかの計算法が使われています。

図 1 ピーク幅

1.接線法 (Tangent)

 ピーク左右の変曲点に引いた接線とベースラインの交点をピーク幅として1)式で計算します。 USP(=United States Pharmacopeia)はこの方法です。 ピークの重なりが大きい時にNは小さくなります。

 また,ピークが変形していて変曲点が複数有る時などに,問題が生じることがあります。

式1 ・・・1)

2.半値幅法 (Half peak height)

ピーク半分高さの幅(W0.5)を利用して計算します。 手作業による計算も簡便なため,最も広く用いられています。 日本薬局方(JP=Japanese Pharmacopeia),DAB(German Pharmacopeia),BP(British Pharmacopeia),EP(European Pharmacopeia)でもこの計算式を使用します。

式2 ・・・2)

半値幅法は,裾広がりのピークでは,他の計算式よりもNは高くなります。

※ 2006年4月の第十五改正で,係数が5.55から5.54へ変更になりました。(LCsolutionでは, "カラムパフォーマンス"で係数の選択が可能です。5.54は計算方法"JP", 5.55は"JP2"。)

3.面積 高さ法 (Area height)

ピーク面積と高さを利用して計算します。 ピークが変形していても比較的正確さ・再現性が得られますが,ピークの重なりが大きい時にNはやや高く計算されます。

式3 ・・・3)  A:面積, H:高さ

4.EMG法 (=Exponential Modified Gaussian)

ピークの非対象性を考慮したパラメータを導入し,10%高さ幅(W0.1)を利用しています。 ベースライン付近の幅を利用しているため,裾広がりピークでは他の計算法よりもNは低くなります。 また,完全に分離していない時は計算できません。

式4 ・・・4)  a0.1:ピーク前半
の10%高さ幅
 b0.1:ピーク後半
の10%高さ幅

計算式の比較

これらの計算式から得られるNは,ピークがガウス型の場合は同じ値です。 しかし,通常のピークはややテーリンク気味であり, 計算式が違えばNに差が生じます。
そこでこの4式について,クロマトグラムを使って比較してみることにします。 右図Aは,通常のクロマトグラム(ややテーリング気味)で,B は大きくテーリングしたクロマトグラムです。 下の表に4式で計算した理論段数を掲載しました。 AのクロマトグラムでもNに多少差が生じています。 しかしピーク変形がひどい場合,例えば Bピーク1の場合はNが数倍も違っていますし,ピークが重なっている場合は計算不可能になってしまう式もあります。
さて,信頼性のおける定量を行うためには,分離できるかどうかがポイントになりますので,「テーリンクなど裾広がりのピークに厳しいジャッジを下す計算式が実用的」との意見をよく聞きます。 ただし,残念ながらNやWをどう考えるべきか統一的認識ができていないようです。
従って,既にある一つの方法で評価をしている場合は,相関をとるためにもその方法を続けるのが好ましいと考えられます。

図 2 クロマトグラム

  表 理論段数計算式の比較
  A (ほぼ通常のピーク) B (大きくテーリング)
1 2 3 4 1 2 3 4
半値幅法 15649 20444 20389 22245 5972 7917 9957
接線法 14061 18516 20309 21447 5773 7692 5795 9707
面積高さ法 13828 19207 17917 21020 4084 7845 6217 8641
EMG法 10171 15058 14766 17836 1356 4671
 
-は計算不能。 半値幅法は係数が5.54の場合の数値。

なお,島津LCワークステーションでは,上記の 1.接線法, 2.半値幅法(5.54), 2'.半値幅法(5.55), 3.面積高さ法, 4.EMG法 いずれでも性能報告を出力することができます。 分析結果に併せてそのときのカラム性能結果も記録しておきましょう!