移動相:50 %エタノール水溶液・・・・
あなたはどうやってこの溶液を作りますか?

 一般に溶媒の混合は,体積比(V/V)または重量比(W/W)により行われています。溶液の体積は温度により変化するので,重量比による混合の方が再現性よく混合溶媒を調製できますが,操作が煩雑なので通常は体積比による混合がされていると考えればよいでしょう。ただし,特殊なケースとして,アミン類のように粘性の高い溶液を混合する場合には,重量-体積比(W/V)によることもあります。

 また,移動相条件の表記法についても文献やHPLCデータ集などによってさまざまです。

 「水100 mLにりん酸を340 μL加え・・・・・・」と移動相調製手順を詳細に書いてあることは極くまれで,「20 %アセトニトリル水溶液」あるいは「アセトニトリル-水(40:60)」などと記載されていたり,「アセトニトリル/水=21/5」や「メタノール/水/りん酸=95/5/0.3」など合計が100 %とならない表記法もあります。

 いずれにせよ,移動相組成の表記法に定まったものがあるわけではありませんが,その条件で分析を追試するときに調製可能な表記法でなければならず,またその表記法を正しく理解できることが必要です。

「50 %(V/V)エタノール水溶液」の意味と調製法

 「エタノール/水=1/1」という表記に対して,下に示しました<手順-1>のような調製法が広く行われているようです。
 ところが「50 %エタノール水溶液」と表記された場合,同じように<手順-1>の方法で調製されている方も多いようですが,化学用語辞典を調べますと実は<手順-2>の方法が正しい容量百分率を示す調製法となっています(表参照)。こうなると,%での表示と「1:1」などの体積比表示とでは最終的にできあがる移動相組成が異なってしまうことになります。つまり,混合溶媒の密度は,もとの溶媒の密度からの単純平均値とは異なるため,上記2通りの方法による移動相組成は異なるものとなります。例えば,室温(25 ℃)付近で水50 mLとエタノール50 mLを混合すると体積が100 mLとならず,減少して約96 mLとなります。一般的には,操作上平易な<手順-1>の方法が広く使用されており,表記法についても「○○○/×××=2/3」といった記載法をされることをお勧めします。

溶媒体積の温度影響

 ところで,前述したように溶液の密度は周囲温度の影響を受けます。溶媒倉庫から持ち出してすぐの溶液は実験室の室温と比べて,かなり低めとなっていることがありますし,メタノールと水との混合液は発熱反応で溶液が温かくなります。このため,移動相を再現性よく調製するために,使用する前に液温が室温近くなるまでしばらく水浴(あるいは湯浴)されることをお勧めします。

2台のポンプで溶媒混合させると・・・・・・

 逆相分析でよく行われる有機溶媒と水とのアイソクラティック法において,高圧2液グラジエントのシステムを用いて2種の移動相を2台のポンプで各々送液させた後にミキサーなど閉鎖系で混合させた場合と,あらかじめボトル内で混合させてから1台のポンプで送液させた場合とでは,混合後の体積変化により保持時間が異なることがありますのでご注意下さい。
 日頃どういった方法で溶媒混合が行われているか今一度,チェックして見て下さい。

<手順-1> -移動相(約)1 L作成する場合-
1) メスシリンダでエタノールを500 mL測りとる。
2) 別のメスシリンダで水を500 mL測りとる。
3) 両液をボトル内でよく振り混ぜる。

<手順-2> -移動相1 L作成する場合-
1) 1Lのメスフラスコにまず500 mLのエタノールを入れる。
2) フラスコをかくはんしながら水を加えていく。
3) (発熱反応のため液温が上がるので)液温が室温になるまで待つ。
4) 全量を水で1 Lにする。


表1. 混合物の組成表示法

名称  定義 
 モル分率  (着目成分のモル数)÷(混合物の全モル数)
 重量分率  (着目成分のグラム数)÷(混合物の全グラム数)
 容量分率  (着目成分の混合前の容積)÷(混合物の容積)

(J.Ma)