HPLC装置で用いる基材のはなし

分析の留意点

LCtalk 100号 入門 より

 HPLC分析においては,高い圧力で多種多様の溶媒を用いるため,装置の基材には耐圧性,耐食性,耐薬品性などが求められます。また,基材への試料成分の吸着や基材からの不純物の溶出などにも留意する必要があります。今回は,ステンレス鋼,合成樹脂などの基材についてのおはなしです。

ステンレス鋼

 ステンレス鋼は,耐圧性,耐食性共に優れ,送液ポンプ(図1),試料導入装置,切換バルブ,クロマトグラフィー管,各種流路配管をはじめHPLC装置を構成する多くの部品で不可欠な基材です。

図1 ステンレス鋼製ポンプヘッド

図1 ステンレス鋼製ポンプヘッド
(ポンプ本体から外した状態,正面側)

 では,ステンレス鋼とはどのようなものでしょうか?ステンレス鋼は,日本工業規格(JIS G 0203:2009)において,クロム含有率を10.5%以上,炭素含有率を1.2%以下とし,耐食性を向上させた合金鋼と定義されており,一般には「SUS」(steel use stainless)という記号が用いられます。ステンレス鋼には,オーステナイト系(クロムニッケル系),オーステナイト・フェライト系(クロムニッケル系),フェライト系(クロム系),マルテンサイト系(クロム系),析出硬化系( クロムニッケル系)の5分類,計61種類があります。
 HPLC装置で用いられるステンレス鋼は,オーステナイト系に属する「SUS316」及び「SUS316L」(SUS316の低炭素タイプ,「L」は「Low」の意味)であり,一般用途で広く用いられているSUS304(「18-8 ステンレス」とも呼ばれる)に,モリブデンを添加して耐食性を向上させたものです。表1に,参考のためSUS316/316L,SUS304の化学成分を示します。
 SUS316および316Lは,HPLCで用いられる各種溶媒に対して耐食性の高い基材ですが,ハロゲンイオン(特に塩化物イオン)により腐食することがあります。例えば,生体高分子分析などで高濃度の塩化ナトリウムを含む移動相を用いる場合,ポンプシール洗浄機構(ポンプヘッド裏側のプランジャーとポンプシール部に自動あるいは手動で水を流す機構,Vol.97,p.10参照)を利用し,使用後は全流路を十分に水洗いすることが大切です。また,このような移動相を常時使用する時には,“Prominence イナートLCシステム”のように接液部の基材として合成樹脂を用いた装置を選びます。合成樹脂基材では,金属への親和性の高い分析種の流路への吸着を抑制することもできます。

合成樹脂

 合成樹脂(プラスチック)には,数多くの種類があります。HPLC 装置で主として使用されるは,以下のものです。

  • ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)
  • ポリプロピレン(PP)
  • ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)
  • ポリエチレン(PE)
  • エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)
  • ポリイミド

 

PEEK

 PEEK は,1980 年代に開発されたスーパーエンジニアリングプラスチックの一種で,耐熱性,耐薬品性,広いpH 適用範囲(0 ~ 14)に加えて機械的強度,耐摩耗性が高く,さらに加工性も優れた樹脂です。前述のイナートLC システム(メタルフリーLC システム)の主要な接液部基材となっています。
 PEEK は,一般のHPLC 装置においても,配管チューブや配管接続部品(フィッティングなど)の基材として馴染み深い樹脂です。PEEK 製配管チューブは,樹脂用チューブカッター(図2)を用いて誰にでも簡単に直角断面に切断できる点,PEEK 製フィッティング(図3)は,手締めにより工具なしでの配管接続(カラムの取り付けなど)ができる点など,ステンレス鋼に比べて扱い易いため,近年広く普及するようになりました。

図2 樹脂用チューブカッター

図2 樹脂用チューブカッター

表1 SUS316および316L,SUS304の化学成分(JIS G4303:2012)

  C Si Mn P S Ni Cr Mo
SUS316 ≦0.08 ≦1.00 ≦2.00 ≦0.045 ≦0.030 10.00~14.00 16.00~18.00 2.00~3.00
SUS316L ≦0.030 ≦1.00 ≦2.00 ≦0.045 ≦0.030 12.00~15.00 16.00~18.00 2.00~3.00
SUS304 ≦0.08 ≦1.00 ≦2.00 ≦0.045 ≦0.030 8.00~10.50 18.00~20.00 -
図3 PEEK 製手締めフィッティング

図3 PEEK 製手締めフィッティング

 なお,PEEK 製チューブには,図4 のように着色してある製品があります。これは内径による色分けで(表2),小さい内径のチューブの場合,目では判別しにくいので大変便利です。

図4 PEEK 製着色チューブ

図4 PEEK 製着色チューブ

表2 PEEK 製チューブの色分け

内径(mm)  
0.05  
0.075  
0.100  
0.13  
内径(mm)  
0.18  
0.25  
0.50  
0.75  

 この他PEEK は,クロマトグラフィー管(図5),切換バルブ(ローターシール),オートサンプラー(ニードルシール)など種々の部品に用いられています。

図5 PEEK 製クロマトグラフィー管

図5 PEEK 製クロマトグラフィー管

 PEEK の注意点は,テトラヒドロフラン(THF),アセトン,クロロホルムなどで劣化が起こることです。これら溶媒の使用に際しては,取扱説明書などをご確認ください。

PP

図6 PP 製バイアル

図6 PP 製バイアル

 PP は,オートサンプラー用試料バイアルとして,ガラスバイアルに吸着する分析種の分析やガラスからの溶出成分が問題になる時などに用いられます。ただし,疎水性成分が吸着する場合がありますので注意が必要です。

PTFE

 PTFE は,耐薬品性,耐熱性が最も優れたふっ素樹脂で,添加剤や不純物の溶出も少ないのが特長です。強酸などを用いるポストカラム誘導体化用の反応チューブとして適していますが,耐圧性が低いため背圧がかかる部分には使用 できません。添加剤を含有させた強化PTFE は,送液ポンプのプランジャーシールに用いられます。

PE,ETFE,ポリイミド

 超高分子量PE が送液ポンプのプランジャーシールの基材として,またETFE やポリイミドはバルブローターシールなどの基材として用いられています。

ガラス

 ガラスの組成は多種多様ですが,HPLC装置ではほうけい酸ガラスが移動相容器,オートサンプラー用試料バイアルなどに用いられています。表3に,ほうけい酸ガラスの組成の一例を示します。

表3 ほうけい酸ガラスの組成例

SiO2 B2O3 Al2O3 Na2O K2O Fe2O3
80.9 12.7 2.3 4.0 0.04 0.03

(単位 %)

 ほうけい酸ガラスは,有機溶媒による浸食がほとんどありませんが,水溶液では表3中の元素や不純物元素が溶出する可能性があります。このため,イオンクロマトグラフィーでは,試料バイアルとして一般に合成樹脂製(PPなど)が用いられます。また,試料バイアル内壁への塩基性物質の吸着にも注意が必要です。これは,主としてバイアル表面に存在するシラノール基への吸着であり,含有している微量金属イオンが影響することもあります。これらの吸着は,試料溶媒の工夫により抑えることができる場合もありますが,強く吸着する時には,表面処理や製法の工夫により吸着を抑制したバイアルや合成樹脂製バイアルを選択してください。
 この他,吸光光度検出器や蛍光検出器などのセル基材として幅広い波長における光透過性に優れる石英ガラス(シリカガラス)が用いられます。石英ガラスは,純粋な二酸化ケイ素(SiO2)から成っており,不純物の量が極めて少ないのが特長です。

その他の基材

 HPLC 装置関連では,その他シリカゲル(充塡剤),セラミック(切換バルブなど),サファイア(プランジャー,チェックバルブ),ルビー(チェックバルブ)などが用いられています。さらに,各種検出器においては,それぞれの原理に基づき上記以外の基材も種々使用されています。

(Mk)

[参考文献]
  1. JIS G 0203:2009 鉄鋼用語(製品及び品質),日本規格協会(2009)
  2. JIS G 4303:2012 ステンレス鋼棒,日本規格協会(2012)
  3. 島津GLC総合カタログ100号,島津ジーエルシー(2013)

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