物質に光を照射すると、そのエネルギーを利用して、基底状態(安定な状態)にある物質内の電子が励起状態(エネルギー的に高く不安定な状態)に遷移します。励起状態に遷移した分子は、熱や他の分子との衝突などによりエネルギーを失い、基底状態に戻ります。この過程において、吸収したエネルギーを光として放射することがあります。この光を光ルミネッセンス(photoluminescence)といい、蛍光やリン光がこれに該当します。図1に蛍光発光の原理を示します。
吸光度検出法は、光の照射により物質が基底状態から励起状態に遷移したときに起こる吸収に基づいて検出する方法です。蛍光検出法は、励起状態に遷移した物質が基底状態に戻るときに発する蛍光を検出します。
蛍光検出できる物質は発蛍光性物質に限定され、発蛍光性物質は光吸収性のある物質の一部です。

図1 蛍光発光の原理

図2に蛍光検出器の模式図を示します。蛍光検出器の光源には、一般にキセノンランプが用いられます。光源から発された光は励起側の回折格子で分光され、フローセルに入射します。その光を受けて励起状態に遷移したセル中の発蛍光物質から発せられた光は蛍光側の回折格子でさらに分光され、光電子増倍管でその強さに応じた電気信号に変換されます。

図2 蛍光検出器の光学系

蛍光検出器を用いた場合、物質固有の励起・蛍光波長で検出できるため、検出選択性が高いことが特長です。また、蛍光検出器は発蛍光性を持たない物質を検出しないため、移動相由来のノイズの影響を受けません。そのため発蛍光物質が発する光エネルギーを直接に検出でき、吸光度検出器よりも高い感度が得られます。

蛍光検出器と吸光度検出器を使って、薬用石けんの有効成分であるイソプロピルメチルフェノール(IPMP)を分析した例を図3に示します。IPMPはUV検出器で検出できますが、発蛍光性の物質であるため、HPLCで高感度分析する上では蛍光検出器が用いられます。蛍光検出器と吸光度検出器によるIPMPの比較を表1に示します。なお、S/Nの測定にはASTM法を適用し、ノイズ測定は本分析の15-25分、0.5分間隔の範囲で実施しました。

図3 IPMP標準溶液(2mg/L)の
クロマトグラムの比較

表1 IPMP(2 mg/L)のS/Nの比較

 

 

 

この分析では2 mg/LのIPMP標準溶液を分析しました。この濃度は、薬用石けん中の含有量に換算すると0.1%となり、厚生労働省で規定されている許容含有量の最低濃度に相当します。蛍光検出器では、UV検出器による分析と比較して約20倍の感度を得ることができました。

蛍光検出器で検出できる物質は、発蛍光物質に限定されていますが、専用試薬と反応させて発蛍光物質に変換(誘導体化)させることにより、発蛍光物質ではない物質についても蛍光検出することができます。

 

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