液クロで用いられる ODSカラム(HPLCカラム)の洗浄方法

分析の留意点

 ODSカラムは,シルカゲル担体に,オクタデシルシリル基(OctaDecylSilyl= ODS基,C18基)を化学結合した充填剤が詰められた逆相クロマトグラフィーで用いられるカラムです。このカラムは高い理論段数と平衡化の速さのため応用範囲が広く,価格も安いので最もHPLCで利用されるカラムです。

 さて,カラムを使用しているうちに様々な問題が生じることがあります。典型的な原因と症状を下記に紹介しますが,今回は,"成分が吸着した場合の洗浄方法"について説明します。

ODSカラム不具合例
  特定成分の溶出が変化 全体に溶出が早い 全体に溶出が遅い ピーク変形 安定化に長時間掛かる 圧力上昇
成分吸着 影響大 影響有 特定条件で有 特定条件で有 影響大  
固定相や充填剤の劣化   影響有   影響有   影響有
不溶解物による詰まり       影響有   影響大
* 主な原因と症状であり,他にも様々なものがあります

(1)ODSカラムの充填剤の表面(固定相)

 洗浄を考える際には,成分がどのような力で吸着しているかを考えていくべきなので,まず,ODS充填剤の表面がどうなっているかを復習してみましょう。

 元々シリカゲル担体の表面には,水酸基があり,Si-OHの構造をしているのでシラノールと言います。 このシラノールにODS基を反応させて結合させ,とりあえずODS充填剤ができる訳です。ただし,ODS基はかさ高くて反応性があまり高くないので多くの未反応のシラノールが残っています。

 この残存シラノールは分析上様々な悪影響*を起こしますので,かさの低い(反応性の高い)TMS基(TriMethylSilyl基)を反応させてシラノールをキャッピングします。 これがエンドキャッピングやTMS化,二次シリル化と呼ばれる作業です。ところがなお僅かのシラノールは表面に残りますし,ODSカラムを分析に使用中にも徐々にODS基が切れてシラノールが生じます。

* 一方でシラノールの吸着作用を利用する分析法もあるため,敢えてシラノールを一定量残した市販ODSカラムもあります。

 

シリカゲル表面
シラノールにODS基を結合
残存シラノールにTMS基を結合

(2)疎水相互作用で保持されている成分の洗浄

 疎水相互作用は,成分の極性の小さな部位と,極性の小さなODS基との間の親和力を指し,純粋な逆相クロマトグラフィーにおける保持の力です。 極性の小さな部位とは,アルキル基,芳香環,などです。 右図上段の例では,成分のプロピル基などとODS基が引きつけ合います。
 この力で保持されている成分を洗い出すには極性の小さな移動相を用います。 移動相条件がメタノール/水=1/1で分析している際には,メタノールの比率を例えば3/1に上げて洗浄液の極性を下げると,カラムに残留していた保持の強い成分を洗い出し易くなります。
 移動相を変更する際に気をつけねばならないのが相溶性です。 さきほどの例で,水ではなく緩衝液を用いている場合は,いきなり有機溶媒混合比を上げると塩が析出する可能性があります。 緩衝液/有機溶媒の分析移動相を用いている場合は,まず同比率の水/有機溶媒*でカラムや流路を置換後に,有機溶媒の比率を上げます。
 洗浄中は検出器でモニタしておきベースラインが安定してくるかを見ておきましょう。
 * なお,洗浄液に用いる移動相には一般的には少し酸を加えておくと良いのですが,これは 3)で説明します。 また,移動相がメタノール100%であった場合は,THF(テトラヒドロフラン)などさらに極性の小さな洗浄液で洗浄します。
 

ODS充填剤表面で起こる相互作用

(3)水素結合やイオン結合で吸着している成分の洗浄

 (1)で触れたように充填剤表面には僅かにシラノールが存在します。 シラノールの水素は電子を酸素に引っ張られて静電的にややプラスになっており,成分中の窒素上に存在する孤立電子対(静電的にややマイナス)の部位と水素結合をつくる性質があります(右上図の中段)。水素結合は弱酸性~中性移動相下で塩基性成分を吸着してテーリングを起こしますし(シラノールは,より高いpHではイオン結合を起こす),塩基性成分が強く吸着していると有機溶媒では洗浄できません。

 この場合は,酸性の洗浄液を用いて窒素上の孤立電子対に水素イオンを配位(プロトン化)させることで水素結合を抑制します。
R-NH2  →  R-NH3+
 酸性にするためには,りん酸または酢酸を0.1%程度加えます。

 一般に,カラムの中に強く保持されている成分にはこのような塩基性の成分もあると考えられますので,(2)において洗浄の際に酸を加えた方が良いという根拠のひとつがこれらを洗浄するためです。また塩基性の成分がカラム内に残存している場合に(イオンペア試薬として塩基性の化合物を用いた場合も)水を流すと,吸着成分の周囲のpHが上がってしまいシリカゲルが溶解しやすくなるので,それを避ける狙いもあります。

 さてところが,移動相を酸性にするだけでは洗浄しづらい成分もあります。それは,テトラブチルアンモニウムのように,イオン半径の大きなプラスイオンの場合です。

 この場合は,解離したシラノールのマイナス電荷とイオン結合が起こると考えられます(上図の下段)。

 イオン結合が強くなります。下図のように末端アミノ基が酸性条件下でプラス電荷を持っている場合はその電荷密度の高さから水和が何重にも生じてマイナスイオンが近づきにくいのに対して,かさ高いアルキル基が取り囲んだアンモニウムイオンの場合は水和が弱くなるためマイナスイオンが近づきやすいため,と考えられます。

 参考に--イオン交換クロマトグラフィーにおいても,イオン半径の小さな順で F-,Cl-,Br-と溶出しますので,イオン半径がある程度の大きさがあった方がイオン結合が強いことが示されています。

 このイオン結合を弱めるためには,対イオンとして 半径の大きなマイナスイオン* を入れた酸性洗浄液を用います。酸性にすることでシラノール解離も抑制します。

 * 例としては,過塩素酸ナトリウムとして0.1M程度入れます。 過塩素酸ナトリウムは無機塩にも拘わらずメタノールやアセトニトリル100%にも溶解し析出が起こりにくい性質を持っています。 また過塩素酸イオンは移動相中でイオン対を作りやすい性質からイオンペアクロマトグラフィーにも利用されています。 (ただしこの試薬は,危険物ですので,熱を掛けたり,火を近づけてはいけません。 廃液は希釈中性にして許可を受けた廃棄物処理業者へ依頼ください)

補足

 シラノールが解離するとマイナスの電荷を持ちますが,ここに金属イオンが結合すると配位性化合物や酸性化合物の吸着が起きやすくなります。金属イオンの洗浄には,洗浄液に競合するイオン種を入れる,金属マスク剤を入れるなどを行いますが,シラノールの解離も抑制した方が良いので移動相/洗浄液のpHを下げることも有効です。

 また酸性にすることで配位性化合物の配位性を弱めることや,酸性化合物のカルボキシル基の解離を抑制する効果もあります。 ただし,シリカゲルはpH4付近が最も安定なので,極端に酸性の強いものを長時間用いるのは禁物です。少量のりん酸か,酢酸など用いるのが適切です。

(4)まとめ

 以上のように,分析移動相に 有機溶媒/緩衝液 を用いている場合は,

1)まず 同じ混合比率の有機溶媒と酸性水で置換後に,

2)有機溶媒比率を高めた酸性洗浄液で洗浄する,

3)強い塩基性成分が含まれることが予想された場合は,その洗浄液に過塩素酸ナトリウムを加える,の手順が割合多くの場合に用いることができます。

 ただし,やはり分析ごとに最適な洗浄方法は異なります。試料に何が含まれているのか,移動相は何か,を常に頭において洗浄を考えましょう。また,同じシリカゲル担体のODSカラムでも使用条件の制限が異なる場合がありますから,取扱説明書を読んで実施するようにしましょう。(Eg)

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