吸光度検出法は、HPLC分析の中で最も汎用的に用いられる検出法です。
光は電磁波の一種であり、電磁波はその波長によって異なる名称が与えられています。図1に電磁波と対応する波長を示します。

 
 

図1 光の種類と波長

 

吸光度検出法では、紫外・可視領域の波長の光を用いて検出します。物質は光が照射されると、特定の波長の光を吸収し、電子のエネルギーが基底状態(最も低い状態)から励起状態(エネルギーが高い状態)に遷移します。吸収される光の波長は物質の分子構造によって異なります。

図2 HPLC分析における吸光度検出の原理
(上:吸光度測定の原理、下:吸光度と濃度の関係)

 
 

検出器のフローセルを通過する移動相の吸光度変化を測定することにより、ピーク成分の濃度を算出することができます。Lambert-Beerの理論では吸光度は物質の濃度に比例しますが、実際の測定では濃度が過剰に高くなると、図2下図に示すように吸光度が飽和します。このため、直線性が保証される濃度範囲(ダイナミックレンジ)で定量を行う必要があります。

紫外吸光度検出器(UV検出器)の模式図を図3に示します。UV検出器の光源には、主に重水素ランプ(D2ランプ;紫外域)が使われます。光源の光は回折格子(グレーティング) により特定の波長の光に分光され、フローセルに入射後、通過します。フローセルを通過した光は受光素子(フォトダイオード)に入射し、光強度に比例した電気信号に変換し、吸光度にデータ処理します。紫外域と可視領域を検出するには、光源にD2ランプとタングステンランプ(Wランプ)を搭載した紫外可視吸光度検出器(UV-VIS)が使われます。

 

フォトダイオードアレイ検出器(photodiode array detector;PDA検出器*)の模式図を図4に示します。PDA検出器に搭載された光源が発した光はフローセルに入射し、フローセルを通過した光が回折格子で分光されます。PDA検出器では検出部に1024個の受光素子が並べられているフォトダイオードアレイが使用されており、分光された光はフォトダイオードアレイで検出後、設定したある特定の範囲の波長のみ電気信号に変換され、吸光度にデータ処理されます。*DAD(diode array detector)と呼ぶこともあります。

図3 UV検出器の光学系

図4 PDA検出器の光学系

図5 PDA検出器で得られるデータのイメージ

PDA検出器では、連続したUVスペクトルを測定することができるため、多波長のクロマトグラムを得ることができます。UV検出器で得られるような、X軸に時間、Y軸に吸光度を示したクロマトグラムだけではなく、波長軸をZ軸とした三次元データが得られます(図5)。

図6にPDA検出器を用いて化粧品の有効成分である紫外線吸収剤を分析した例を示します。 図6左図に示すように、PDA検出器を用いると1回の分析で複数の波長によるクロマトグラムを取得することができます。図6右図はクロマトグラムで検出された各化合物のピークトップのUVスペクトルを示しています。
異なる波長で同時分析ができるのは、この分析で得られた各成分のUVスペクトルの極大吸収波長に違いがあるためです。
UV検出器を用いた分析における定性情報は、標準品の保持時間と検出された成分の保持時間の比較のみですが、PDA検出器は、対象成分の保持時間に加え、標準品のUVスペクトルと検出された成分のUVスペクトルの比較が可能です。

図6 PDA検出器による紫外線吸収剤の分析例
(左)化粧品のクロマトグラム、(右)検出された成分のUVスペクトル

図7 UVスペクトルを用いた定性分析例

図7は、310 nmで検出された化合物Bについて標準品のUVスペクトルと化粧品中のUVスペクトルを重ね書きしたものです。2つのUVスペクトルが一致しており、化粧品で検出された化合物は標準品と同一成分であると考えられます。このようにPDA検出器を用いることにより、UVスペクトル情報も得ることができるため、より信頼性の高い定性が可能です。

なお、近年ではPDA検出器で得られたデータを、ソフトウェア処理により、未分離ピークの分離ダイナミックレンジの拡張も可能な製品もあります。