HPVシリーズ開発者インタビュー
島津高速度ビデオカメラを開発する技術者に取材したインタビュー記事です。
開発にかける熱い想いや未来の高速度ビデオカメラへの展望についてご紹介いたします。
2050年の高速度ビデオカメラ
高速度ビデオカメラとは、人の目では捉えられないほど早く、刹那に起こる事象を正確かつ網羅的に見ることができる最先端のカメラを指します。今後、高速度ビデオカメラはさらに用途を広げ、さらに多くのユーザーに役立つことが求められています。
はたして25年後の高速度ビデオカメラは一体どのような存在になるのか。島津製作所の高速度ビデオカメラの根幹となる技術を開発した東北大学 須川教授・黒田教授と、島津製作所製品開発担当者が、未来の高速度ビデオカメラ開発にかける熱い思いや展望について話し合いました。

東北大学 未来科学技術共同研究センター 黒田理人 教授(左)、須川成利 教授(中央)、間脇武蔵 助教
※ご所属・役職は掲載当時のものです。
AIカメラ

須川教授:
我々は最新の半導体技術を用いて、画素と各画素に対応する複数のメモリを同じチップ内に実装する事で、ビデオカメラの高速化を実現しました。
半導体技術の目まぐるしい進歩を考えると、10年後には現在のメモリだけでなく、AD変換器や大規模DRAM、さらにはAIといったデータ処理も同じ半導体チップ内で可能になると考えられます。
このような状況を想定し、25年後のカメラを考えることが重要だと考えます。
北邨(島津製作所 製品開発担当者):
高速度ビデオカメラの宿命として、とてつもない時間分解能によって蓄積された莫大な情報をいかに効率よく分析するかが重要だと考えています。
たった1秒という時間でも高速度ビデオカメラの50ナノ秒の時間分解能からすると2000万フレームに相当し、30 fpsで再生しても1週間かけないとすべてを見ることができないことになります。まさに海に存在する砂粒を探すような膨大な作業が必要で、人間の力では限界があります。
このような状況ではAIの力を借りてイベントを検出し、現象の把握をAIにサポートしてもらうことが必須になってくるのかもしれません。
使いやすいカメラ

高速度ビデオカメラによる撮影の一例。
撮影したい事象に合わせて、様々な撮影方法を構築する必要がある。
(撮影協力:京都大学理工学研究科マイクロエンジニアリング専攻 マイクロ加工システム分野 名村今日子 先生)
黒田教授:
カメラで使っている半導体技術はプレイヤーが充分なため最新の技術をキャッチアップするだけで確実に進歩するはずです。その時々の最新の半導体技術を使えばセンサ高速化やメモリ数・画素数といったカメラの基本性能はどんどん進歩できると思います。
むしろ重要なのは、高速度カメラに必要な周辺技術の開発です。特に、一部の人にしか使えないような装置は望ましくありません。カメラを容易に使ってもらえるように、使いやすい操作や後処理機能の充実、小型化、光源の工夫が求められます。
結局、使うのは人間であるため、性能だけでなく、作業者がどのようにカメラを使い、全体としてどのような前工程・後工程があるのかを理解することが重要です。これにより、少しでも使いやすいカメラを実現するためのトータルソリューションとして開発を進めることが大切です。
そのためには、どのように使われているのかを把握し、使っていただいている皆様に協力していただきながら、地道に取り組んでいく必要があります。
技術の王道を進むカメラ
北邨:
AIの話がありましたが、弊社カメラの最大の弱点として現在256枚に限られる撮影枚数があります。
AIを搭載して、そもそもメモリに記録する情報量を減らすことができれば、現在の256枚の撮影容量でももしかすると十分なのかもしれません。
須川教授:
確かに、現在256枚という制限は弱点なのかもしれません。しかし、その制限は技術開発によって必ず克服できると思います。
だから、あらかじめ情報量を減らすといった小細工は絶対にしない方が良いです。
小手先の技術は所詮その場しのぎにしかならず、長続きしません。
特に高速度ビデオカメラは、人間が見えないものを見るための装置であり、見えないものを予測するのは非常に困難です。
膨大な情報でもあきらめずに探すことで、予想もしなかった発見ができるのがこの装置の醍醐味です。
黒田教授:
この装置の良さの一つは、現在の科学技術の王道を集めて開発している点にあると考えています。
このまま王道を進むべきであり、王道の先に良い結果があると信じています。
予測を超えたカメラ
須川教授:
これまでのカメラについての議論はどれも将来のカメラについての議論ですが、25年後ではなく10年後といった近い将来の話です。
もう今見えている技術の話であり、25年後にはおそらく今では想像がつかないものになっているでしょうし、そういうものにしていかなければなりません。
そのためには、将来を常に想像しながら最新の技術を取り入れてより良いものにしていくことが重要です。
これまでの王道・原理原則を貫いた先に、より良い未来があると信じて開発を続けていき、良い意味で予想を裏切ることが大切です。
まとめ
高速度ビデオカメラに関わる先生方と未来の高速度ビデオカメラについてのアイディアを議論しました。
良い意味で予想を裏切る製品の開発には、王道である最新の半導体技術を適用するというハードの進化と、より使いやすい製品・トータルソリューションといったソフトの変化につながる地道な取り組みが重要であるという結論に至りました。
王道の真ん中を行く世界最先端の高速度ビデオカメラを作り続けるために、島津製作所はAIや半導体技術といった先端技術をさらに活用し、新しい価値の創造に挑戦しつづけます。

須川教授、黒田教授、間脇助教と島津製作所開発メンバー
新製品HyperVision HPV-X3と。