気体試料の測定法

FTIR基礎・理論編

FTIR TALK vol.13(1994)

■はじめに

今回は気体あるいは気化しやすい試料の測定法です。 一般的に,これらはガスセルを使用して透過法で測定しますが,測定に際して幾つか考慮すべき点があります。 また,ガスセルには多種多様のものが用意されており,用途にあった選択が必要です。 ここでは気体試料を測定する際の留意点および幾つかのガスセルとその測定法について述べたいと思います。

■測定上の留意点

固体あるいは液体状態の試料の場合には,分子が会合した状態にあり,0.5cm-1の高分解でスペクトル測定しても,一般的に用いられる4cm-1の分解で測定しても極低温の場合を除いてスペクトルの分解にあまり大きな差は見られませんが,気体試料の場合には FTIR の分解の違いによってスペクトルの分解も大きく異なってきます。 これは気体状態では分子振動以外に回転エネルギー準位間の遷移に基づく吸収が微細構造となって多数現れるためで,気体試料特有の微細構造を明確に得るためには高分解で測定する必要があります。 図1に分解0.5cm-1と1cm-1で測定した25ppm NOガスの赤外スペクトルを示します。 1945〜1900cm-1および1850〜1795cm-1の範囲で分解の差が見られます。
また,FTIR にはアポダイゼーション関数と呼ばれる装置関数があり,箱形(RECTANGULAR)関数,三角形(TRIANGULAR)関数,ハップ・ゲンゼル(HAPP-GEN-ZEL)関数等が用意されています。 これらの関数にはそれぞれ特徴がありますが,高分解測定には箱形関数を選択します。
高分解測定では水蒸気が強く影響を及ぼします。 FTIR 本体に対してのパージは必須条件であり,また試料に水分が含まれている場合には,ガスセルに試料を導入する前に脱水処理が必要となります。
気体試料を定量的に取り扱う際には,セル内の圧力を調節する必要がありますが,それ以外に圧力ブロードニング効果(Pressure Broadening Effect)についても考慮しなければなりません。 これは気体試料の分圧が同じであっても全圧が異なると吸収帯の幅や吸光係数が変わることがあるということです。 また共存する気体として,水素分子のような分子半径の小さな気体を入れたときと,分子半径の大さな気体を入れたときとでは吸収帯の形状や吸光係数が異なることがあり注意を要します1)

分解0.5cm-1
(a) 分解0.5cm-1
分解1cm-1
(b) 分解1cm-1

■5cm,10cmガスセル

図2に光路長 5cm と10cm のガスセルを示します。 セル筒はガラス製で円錐台形になっており,その両端に赤外光透過性の窓材(KBr,KRS-5 など)が接着されています。 内容積は光路長 5cm が 42mL,10cm が98mL です。 これらのガスセルは赤外光を1回透過させるだけなので,濃度の低い試料の場合には,ガスセル内の圧力をやや高めて行ないます。
これらのガスセルに試料を導入する際には,一方のコックに真空ポンプを連結し,コックを開いて真空にします。 次に,このコックを閉じ,他方のコックに試料を連結してコックを開くと試料がガスセルに導入されます。 内部の圧力を数10Torr から760Torr 程度にして測定します。
これらのガスセルには圧力計がついていないために,圧力を調整して試料を封入するためには図3に示したようなマノメーター(圧力計)を連結したサンプリング装置を用います。 ガスセル,マノメーター,試料の入った容器を図3のように接続します。 コックK1,K2,K3を開いて真空排気したのちK3を閉じます。 次にK1を閉じ,K4を徐々に開くとガスセルに試料が入るのでマノメーターを見ながら適当な圧力に達したときにK4を閉じます。 最後にK2を閉じてガスセルをはずし測定を行ないます。

光路長 5cm, 10cm のガスセル
図2 光路長 5cm, 10cm のガスセル
気体試料のサンプリング装置
図3 気体試料のサンプリング装置

■長光路ガスセル

長光路ガスセルの光学系
図4 長光路ガスセルの光学系

ppm オーダーあるいはそれ以下の低濃度の気体試料を測定する場合には,光路長が10m とか20m とか言った長光路ガスセルを使用します。 このようなガスセルは直線的に10m のような光路長を持っているのではなく,図4に示すように3枚の鏡で構成されているガスセル内を多重反射することによって長い光路を作り出します2)
図4に示す3枚の鏡は同じ曲率半径を持ち,それがガスセルのベースの光路長となります。 光源からの赤外光はガスセルの入射口で焦点を結び,鏡M1で反射され,鏡M2で焦点を結びます。 鏡M2で反射された赤外光は鏡M3で反射され,再び鏡M2で焦点を結びます。
鏡M2における結像を図5に示しますが,2段の状態になっており,4n-2 および 4n(nは自然数)は鏡M2における何番目の結像かを示しています。 このように赤外光は鏡M1,M2,M3の間で多重反射し,最終的に鏡M3で反射され,出射口で焦点を結び検出器に到達します。
図6に光路長10m のガスセルの外観を示します。 図6ではFTIR本体の試料室にガスセルが置かれていますが,FTIR-8000シリーズの赤外光外部取り出し機構を使用した外部横置きタイプのものも用意されています。
長光路ガスセルの場合には,内部に鏡が設置されています。 そのため腐食性の試料を測定する際には,通常のアルミニウムの鏡では劣化してしまうために,金コーティングの鏡を使用したガスセルを使用しなければなりません。

鏡M2における結像
図5 鏡M2における結像
光路長10m のガスセル
図6 光路長10m のガスセル

■むすび

ここでは気体試料の測定法や留意点について述べてきました。 ガスセルにはここでは紹介しませんでしたが,光路長が100m 以上のもの,加熱可能なものあるいは耐圧性に優れたものなど多種多様のものが用意されており,用途にあったガスセルを選択する必要があるでしょう。

■参考文献

1)田中誠之著,“赤外・ラマン分析”,共立出版(1978)
2)Infrared Analysis社,カタログ92

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