金属板上コーティング物の測定法

FTIR基礎・理論編

FTIR TALK vol.12

■はじめに

金属板上コーティング物と言われて思い浮かべる試料は,自動車の塗膜のように厚いものや,缶ジュース内側のコーティング膜のように数μm の厚みのもの,また,ハードディスク上フッ素オイルのように数nm ととても薄いものと,様々な膜厚のものがあります。
このような試料は,赤外スペクトルを測定して定性に用いるか,定量に用いるのか,その目的によって測定方法(付属品の選択)も異なってきます。

■反射法による測定

反射法の光学系
図1 反射法の光学系

金属板上コーティング物の一般的な測定法として,反射法があります。 図1のように,正反射法と高感度反射法では,赤外光は試料を透過して,金属表面で反射し,もう一度試料を透過します。 同じ膜厚の試料でも入射角の違いによって,光路長が異なります。 図1のように,入射角の大きい高感度反射法の方が光路長は長くなります。
そこで,金属板上の試料の厚みによって正反射法,あるいは,高感度反射法を選択します。

(1)正反射法

コーティング物の厚さが1〜2μm 以上ある場合は,正反射法で測定します。 IRPrestige-21/FTIR-8000シリーズ用の正反射測定付属装置(SRM-8000シリーズ)は,平均入射角が10度です。
測定方法は,コーティング物のない金属板がある場合,金属部分でバックグラウンドを測定します。そのような金属板がない場合は,付属のアルミニウムミラーでバックグラウンドを測定します。 試料は,試料面(コーティング物部分)を下に向けてサンプル測定を行なうだけなので,簡単に再現性よく測定でさます。 そのため,すでに厚さのわかっているコーティング物試料のピーク高さ・面積を用いて検量線を作成し,コーティング物の膜厚を定量することも可能です。
また,正反射法で測定した場合も,透過法でフィルムを測定したときと同様に,干渉縞の影響を受けることがあります。 干渉縞は,コーティング膜の表面状態が鏡面のようになっており,その膜厚が一定範囲のときにスペクトルに現れてきます。 そのため,試料の屈折率がわかっている場合は,入射角と干渉縞の数からコーティング膜の膜厚が求められ,膜厚がわかっている場合は,同様にして膜の屈折率を求めることができます。 但し,スペクトルを定性に用いる場合は,不必要な情報ですので,干渉縞が現れないように,表面をヤスリなどで傷つけて粗面にしてから測定します。

(2)高感度反射法

高感度反射測定装置(RAS-8000シリーズ)は,平均入射角が70度で,遮光板を取り付けると75度になります。 また,より大きい入射角(80度)のタイプもあります。 これらは,一般的には,コーティング物の厚さが,数μm 以下の場合に使用します。 数nm 〜10nm と薄い膜を測定する場合には,これらの高感度反射測定装置にグリッド偏光子を組み合わせて,平行偏光で測定します。
測定方法は,正反射法と同じように,コーティング膜のついていない金属面,または付属のアルミニウムや金のミラーをバックグラウンドとして,試料面を下に向けてセットし,試料のスペクトルを測定します。
図2にハードディスク上フッ素オイルを,入射角70度の高感度反射測定装置で測定した例を示します。 膜厚は,緑色が1.18nm(11.8Å),赤色が2.54nm(25.4Å),紫色が4.10nm(41.0Å),青色が4.88nm(48.8Å)です。 図3にフッ素オイルの1350cm-1から1200cm-1の範囲のピーク面積で作成した検量線を示します。 なお,この測定は,本体のDLATGS 検出器を用い,偏光子と組み合わせて行ないました。
厚いコーティング物(数μm 以上)の試料を,高感度反射法で測定すると,ピーク波数がずれたり,スペクトルが歪んだりすることがあります。 また,無機物の場合には,屈折率の異常分散現象により,透過法と比較してピーク波数が異なることがありますので,スペクトルの解釈には注意が必要です。

ハードディスク上フッ素オイルの赤外スペクトル
図2 ハードディスク上フッ素オイルの赤外スペクトル
フッ素オイルの検量線
図3 フッ素オイルの検量線

■全反射測定法(ATR法)

正反射法では干渉縞が現れたり、コーティング物の厚さが厚過ぎてピークが飽和してしまい定性が困難な試料の場合にはATR法で測定します。 多重反射ATR法で測定する場合、カットできる試料は適当な大きさにカットして測定します(一回反射ATR法で測定する場合、カットなどの前処理はほとんど必要ありません)。カットできないテストピースのようなものでも平板状の試料であれば、試料で赤外光を遮らないように、ATRプリズムの広い面の側にセットして測定することができます。
カットできる試料は、通常金切りバサミやハサミを使って適当な大きさに切ります。 その場合,切口にかえり(バリ)ができることがあります。 そのままATRプリズムに密着させますと,プリズムが傷ついたり,かえりの部分だけがプリズムに接してしまい,実際に測定したいコーティング物がプリズムに密着できないことがあります。 かえりのできてしまった試料は,そのまま使用せず,ヤスリでかえりの部分を削り落とすか,プレスして平坦にしてから測定すると良いスペクトルが得られます。

■その他測定法

ここで紹介した付属装置をお持ちでない方は,コーティング物部分をサンプリングして測定します。
試料を,きれいに洗浄した金ヤスリやカッターで削り取り,乳鉢で細かくすりつぶします。 そこに KBr 粉末を入れて良く混ぜ合わせ,KBr 錠剤を作成し,透過法で測定します。 あるいは,混ぜ合わせたものを,拡散反射法で測定します。
SiCサンプラを使用すると,サンプリングや測定がより簡単になります。 ホルダにはりつけたSiC(シリコンカーバイト)の紙ヤスリでコーティング物を削り取り,ホルダごと拡散反射測定装置にセットして赤外スペクトルを測定することがでさます。 このときのバックグラウンドは,SiC の紙ヤスリで測定します。

■むすび

以上のように,金属板コーティング物の測定には,その目的と試料の厚みによって,正反射法,高感度反射法,全反射法と使い分ける必要があります。

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