フィルムとプラスチックの測定法

FTIR基礎・理論編

FTIR TALK vol.11(1993)

■はじめに

一言で‘プラスチック’と言ってもその形状は粉末状,フィルム,板状等とさまざまであり,また成形品となると形状はもちろん,一つの成形品の中に数種の高分子材料が用いられていることも少なくありません。
このような‘プラスチック’に対し,FTIRによる赤外分光法では,その形状,測定部位にあわせてさまざまな測定方法があります。 今回はこれらの測定方法についてご紹介したいと思います。

■透過法による測定

ポリスチレンフィルムの透過スペクトル
図1 ポリスチレンフィルムの透過スペクトル

厚さ40〜50μm 以下の単層フィルムやフィルム法によりその程度の厚さのフィルムに調製した試料は,厚紙など適当なホルダーにはさんで透過測定することができます。 この場合測定そのものは非常に簡単ですが,しばしば図1に示すような干渉縞の影響を受ける事があります。 この干渉縞は膜厚測定に利用する事もできますが,定量,定性両方の面でスペクトルの取扱いを困難にしてしまいます。 この影響を軽減するにはフィルムの表面を紙ヤスリなどで傷つけ粗面にするなどの工夫が必要です。
なお,フィルム法とは試料を溶媒に溶かし,その溶液をガラス板や金属板上で薄くのばして溶媒を蒸発させることにより試料をフィルム状に成形する方法です。

■全反射測定法(ATR法)

赤外光が透過しない厚いフィルムやプラスチックまたゴムなどの試料には全反射測定法(ATR法)が有効です。
ATR法は,試料をプリズムと密着させて測定します。 この方法は,赤外光がプリズム中で全反射する際にほんのわずか試料中にもぐり込むため赤外スペクトルが得られるのですが,このもぐり込み深さが数μm 程度なので,試料のごく表面の情報が得られることになります。 そのため赤外光が透過しないような厚いフィルムやプラスチックでもそのまま測定することが可能です。 また,赤外光の入射角度やプリズムの種類を変えることにより,もぐり込み深さを変化させることができるため,深さ方向で変化を持つ試料の情報や,差スペクトルと組み合わせることにより多層フィルムの内側の層のスペクトルを得ることなどができます。

■正反射法

表面がある程度なめらかでフラットな試料の場合,正反射測定により赤外スペクトルを得ることができます。 この方法は,正反射付属装置 SRM-8000 を用いた場合,サンプリングは測定面を下にして置くだけなので,ATR法のようにプリズムと密着させるなどの手間もなく簡単に測定することができます。
しかしその半面,プラスチック板などをこの方法で測定すると図2で示すように,反射率は数%のうえピークが歪んだスペクトルになってしまいます。 このピークの歪みは屈折率の異常分散によるものですが,このようなスペクトルでは定性的にも定量的にも取扱いがたいへん困難です。 そのためこのような歪んだスペクトルはクラマース・クローニッヒ解析を用いて通常の吸収スペクトルに変換する必要があります。 図3に図2のスペクトルをクラマース・クローニッヒ解析したものを示します。

PMMAの正反射スペクトル
図2 PMMAの正反射スペクトル
クラマース・クローニッヒ解析後のスペクトル
図3 クラマース・クローニッヒ解析後のスペクトル

■顕微鏡による測定

多層フィルムの各層の赤外スペクトルを測定するには顕微鏡を用いた測定が有効です。
顕微鏡を用いないで測定しようとした場合,透過法では各層を一層ごとにはがす必要があります。 また,フィルム同士が接着剤により接着されていた場合はその接着剤をきれいに落とさなければなりません。
それに対し,顕微鏡を用いれば 10μm 程度の微小部分でも測定が可能なため,ミクロトームなどで多層フィルムの断面を薄くスライスすることにより各層の測定をすることができます。

■SiCサンプラ

これまでにご紹介してきた測定法はどれも試料の大きさが測定に適した大きさであるか,もしくは測定に適した大きさに切り出せることを前提としてきました。
しかし,実際はそういう試料ばかりではなく,例えば使用中の樹脂製タンクのようなものを試料とする場合もあります。 このような大形成形品の赤外スペクトルを測定するにはたいていの場合サンプリングと前処理にある程度の労力を費やさねばなりません。 また時には切り出し等のサンプリングができない場合もあります。 このような場合,SiCサンプラはたいへん有効かつ便利なサンプリング方法として利用することができます。
SiCサンプラは,ホルダにはりつけたSiC(シリコンカーバイト)の紙ヤスリで試料を削り取ることにより紙ヤスリ上に直接サンプリングが行え,ホルダごとに拡散反射付属装置に装着して赤外スペクトルを測定することができます。 そのため,試料の切り出しや希釈などの前処理の手間がなくなり,大形成形品等の測定が簡便に行えるのです。

SiCサンプラの構造
図4 SiCサンプラの構造
SiCサンプラの外観
図5 SiCサンプラの外観

■むすび

以上のように,今回は‘プラスチック’の測定方法について見てきました。 このように‘プラスチック’の測定に関しては,その形状,目的にあった測定方法を選ぶ必要があります。

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