ゴム試料の測定法

FTIR基礎・理論編

FTIR TALK vol.10(1993)

■はじめに

一口にゴムと言っても,種々の成分があり,単独成分で製品となっているものもあれば,2種類以上の成分が混合されて成形品となっているものもあります。 また,加硫ゴムになると,加硫促進剤や老化防止剤,充填剤などの非ゴム成分が含まれています。 これらのゴムの赤外線スペクトルを得るには,試料の形状や共存物質の種類と量により,適切な前処理を施して測定する必要があります。 ここでは,代表的な測定法として,薄切片法,可溶化法,熱分解法,ATR法および熱分解GC-FTIR法についてご紹介します。

■薄切片法

薄切片法によるブレンドゴム(ブチル-天然ゴム)の透過スペクトル
図1 薄切片法によるブレンドゴム (ブチル-天然ゴム)の透過スペクトル(ベースライン補正済み)

ゴム試料を抽出や溶解などの前処理をせずに測定する方法として,ゴム試料を薄く切り出して,透過法で測定する方法があります。 切断するためには,ミクロトームを使いますが,柔軟性があるために,試料を凍結しながら行う必要があり,そのため,冷却装置のついたミクロトームが必要になります。 ゴムの薄切片を作る別の方法としては,ダイヤモンドセルを用いる方法があります。 これはダイヤモンドの2枚の窓板の間に小さい試料片をはさんで,押さえつけることにより,試料を薄膜状にする方法です。 この方法は,ミクロトームによる場合ほど高度なテクニックを必要とせず,比較的簡単に前処理ができます。 図1はブチルゴムと天然ゴムのブレンド物をダイヤモンドセルで薄くした後,赤外顕微鏡による透過法で測定したものです。

ダイヤモンドセルの構造
図2 ダイヤモンドセルの構造(B型)
ダイヤモンドセルの外観
図3 ダイヤモンドセルの外観

■熱分解法

試料を熱分解させ,できた乾留液を透過法で測定する方法です。 試料を試験管に入れ,その底部をブンゼンバーナーで過熱し,試験管上部の冷却部分に凝縮した熱分解物を NaCl や KBr などの窓板に直接はさみ,赤外スペクトルを測定します。 得られるスペクトルは配合剤などが混入するために生ゴムのスペクトルと異なる場合が多くなります。

■可溶化法

試料をアセトン-クロロホルム(32:68)混合液で抽出して,遊離イオウ,ロウ,鉱物油,軟化剤などの成分を除去し,次いでo-ジクロロベンゼン,テトラクロロエタンなどの高沸点溶剤を加えて,内容物が完全に溶解するまで2〜30時間還流を行います。 冷却後トルエンを加えて希釈し,不溶物をろ別します。 得られたろ液を減圧濃縮した後,KBr板に塗布し,溶剤を乾燥除去してから,液膜法で赤外スペクトルを測定します。 この方法によると試料の溶解に長時間を要しますが,生ゴムとほとんど変わらないスペクトルが得られます。

■ATR法

ブレンドゴム(ブチルゴム-天然ゴム)のATRスペクトル
図4 ブレンドゴム(ブチルゴム-天然ゴム)のATRスペクトル

ATR法は,前述の各方法と違って前処理を必要としないため,非常に簡単に測定ができます。 試料をKRS-5 やGe などの高屈折率物質のプリズムに密着させ,試料表面の赤外スペクトルを測定します。 試料は,平板状のものが好ましいですがプリズムに押さえつけて密着できるものなら,形状を問わず測定できます。 カーボンブラックを多く含有した黒色ゴムの場合は,屈折率の高いGe プリズムを用いる必要があります。 ATR法では,試料表面から数μm 程度の深さまでの情報が得られますが,深さ方向によって試料成分が異なっていたり,表面析出物がある場合は,スペクトルの解析上注意を要します。 図4は,図1で用いた同じ試料をATR法で測定したものです。

■熱分解 GC-FTIR 法

先に述べた熱分解法では,熱分解による凝結成分のみを分析対象としたのに対し,熱分解生成物を直接ガスクロマトグラフィー(GC)に導入して,分離成分の赤外スペクトルをオンラインで測定する方法として熱分解GC-FTIR法があります。 試料はまず,熱分解装置で加熱分解された後,GCのカラムを通って分離され,一部はFID検出器,残りはFTIRのライトパイプと呼ばれるセルに導入されます。 熱分解装置としては,加熱炉型,高周波誘導加熱炉型(キュリーポイント型)などがよく使われています。
熱分解GC-FTIR法によると,分離成分ごとの赤外スペクトルが測定できるため,ゴム成分の定性のほか,配合剤として添加されている種々の成分の定性も可能となります。 FTIRの技術進歩に伴い,GC-FTIR法がより汎用化されると,この方法がゴム分析の手法としてより一般的なものになると思われます。

■むすび

以上,ゴムの測定法にはいろいろな方法がありますが,図1と図4を比べてもわかるように,前処理方法が異なると,得られるスペクトルにも違いが見られます。 したがって,赤外スペクトルからゴムの定性を行う場合は,同じ処理方法で測定した標準スペクトルと照合し,比較することによって定性することが必要になります。

■参考文献

日本分析化学会高分子分析研究懇談会編,“高分子分析ハンドブック”,p516-520,朝倉書店(1986)

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