vol.20 清涼飲料における解析事例

FTIR TALK LETTER
新井 誠尚 先生

2013年5月発行
新井 誠尚 先生

アサヒ飲料株式会社 研究開発本部 技術研究所
品質技術グループ 分析技術チーム


(ご所属・役職は2013年5月発行時)

1.はじめに
 弊社では清涼飲料の製造・販売を行っており,基幹商品として「三ツ矢サイダー」「缶コーヒーWONDA」「十六茶」を,またその他にもロングセラーブランドである「六甲のおいしい水」「バヤリース」「ウィルキンソン」等を含む各種清涼飲料商品を取り扱っております。使用する原料や資材,製法,流通過程,飲用シーンなどが多岐に渡りますので,商品開発・製造・販売における様々な場面で成分解析が必要となります。私の所属する研究所部門だけでなく工場部門・品質保証部門とも協力していろいろな分析法を用いて解析をしておりますが,その解析手段の1つとしてFT-IR装置を用いており,得られた解析結果をお客様の安全・安心感のさらなる向上やよりよい製品作りに活用しております。ここでは飲用中に飲料容器中に混入して認識されたと思われる試料の解析事例を主としてご紹介します。

事例1

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 飲用中にミネラルウォーターの液色が黄色くなってしまった事例です。遠心分離により黄色沈殿を分離採取しFT-IR分析を実施したところ,クルクミンと類似したスペクトルが得られました。クルクミンは二日酔い防止を期待して飲まれるウコンの黄色色素成分で近年では顆粒状の商品も販売されています。

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事例2
 飲料容器中に茶色片が混入していた事例です。FT-IR分析を実施したところセルロースが主成分であると推定されるスペクトルが得られました。あわせて顕微鏡での拡大観察を実施したところ繊維状の構造と赤や青の着色部が観察されたことからダンボールの切れ端と推定されました。ダンボールはリサイクル率が高いため,拡大するとリサイクル前のダンボールに印刷されていたと思われるインクの残渣が観察される場合があります。

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事例3
 飲料容器中に茶色片が混入していた事例です。FT-IR分析を実施したところアミド結合の存在を示唆する2本のピーク(1650cm-1と 1540cm-1)が確認されており,形状観察の結果もふまえると,薬品を詰める場合等に使用されるカプセルと推定されました。カプセルの材質としてはゼラチン(タンパク質が主成分)が使用されている場合が多いようです。

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事例4
 飲用中に飲料水が白濁した事例です。よく観察すると白い粒子が容器中でたくさん浮遊している状況が目視で確認できました。白い粒子をスポイトで取り出してFT-IR分析を実施したところ,主成分がアセトアミノフェンと思われる市販の風邪薬と類似のスペクトルが得られました。

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事例5
 商品開発における配合検討の過程で原料を水中で混合し静置していたところ白色沈殿が発生した事例です。FT-IR分析を実施したところクエン酸カルシウムと類似したスペクトルが得られました。このときの混合液中ではクエン酸と乳酸カルシウムが配合されていましたが,配合量が多すぎたために乳酸カルシウムよりも水への溶解度が低いクエン酸カルシウムとなって析出し沈殿が発生したと推定されます。

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事例6
 飲料容器中に混入していた事例です。セルロースと類似したスペクトルが得られています。セロハンテープの切れ端と思われます。ややピークの先端の形状が乱れているのは吸光度が高く吸収が飽和気味である影響と推定されます。試料がやや厚かったと考えられるため,可能ならさらに薄くスライスして分析することでよりわかりやすい結果が得られると思われます。

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事例7
 飲料容器中に混入していた事例です。ポリエチレンのスペクトルが得られています。何らかの容器の切れ端と思われます。

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事例8
 飲料容器中に混入していた事例です。試料はビニール袋の切れ端と思われます。ポリエチレンと推定されるスペクトルが得られていますが,干渉縞が出現しベースラインがやや波打っています。測定した試料面が平滑であったと考えられ,他の位置で測定を実施したり可能であれば表面にわずかに傷をつける等の処理によりベースラインの波打ちが改善される可能性があります。

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事例9
 飲料容器中に混入していた事例です。ポリ塩化ビニルと類似したスペクトルが得られています。ポリ塩化ビニルは身の回りの様々な製品の材料として使用されています。基本的には試料は水溶液中から取り出した後乾燥させて分析を実施しますが,乾燥が十分でないもしくは乾燥が困難な試料の場合は水に由来するOH基(3600~3000cm-1の波数で観察されているブロードなピーク)の検出が見られる場合があります。

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事例10
 飲料容器中に混入していた事例です。アクリル樹脂と類似したスペクトルが得られています。樹脂類は外見や硬さだけでは判別しづらい場合が多いですが,FT-IRを使用することで比較的容易に材質判別ができる場合があります。

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事例11
 飲料容器中に混入していた事例です。タンパクを主とした混合物のスペクトルが得られています。毛髪と思われます。毛髪はケラチンとよばれるタンパク質を主成分としています。

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事例12
 飲料容器中に混入していた事例です。タンパク質と炭水化物を含む混合物のスペクトルが得られています。海苔類と思われます。海苔類の主成分はタンパク質と炭水化物とされています。

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おわりに
 私たちが分析する際の試料は単一成分でない混合物の場合がほとんどであり,また試料量が少ない等の様々な事情から試料の前処理・加工が思うようにできない場合もあります。また弊社商品の性質上,FT-IR分析の際に水の影響を完全に除去することが難しい場合が多いです。そういった状況をふまえて解析していかなければならないという点については解析者が常に頭の片隅に置いておく必要があります。
 分析・解析を行う際にはさまざまな側面から対象を評価していく必要があると思います。一見複雑な事象でも一つ一つ丁寧に解析していくことで解決できる場合もあります。その過程でFT-IR装置のように物質の特性を可視的・客観的に表現してくれる機器をうまく活用することは問題解決の早道になると考えます。 以上

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