vol.12 高い経済成長を遂げるインドのFTIR市場

FTIR TALK LETTER
Ms.Joyce FTIR担当と戸倉 貴子 筆者

2009年5月発行
戸倉 貴子

Shimadzu (Asia Pacific) Pte. Ltd. Customer Support Centre

はじめに
 Shimadzu (AsiaPacific) Pte. Ltd. [シマヅ(アジア パシフィック)プライベイト リミテッド]は北緯1度のシンガポール共和国に事務所があり、東はフィリピンから西はパキスタンまでの13カ国にFTIRを含む当社製品を販売しています。東南・南アジアには高温多湿な国々が多く、ほぼ毎朝湿度が90%を超え、日中でも約80%と蒸暑い毎日が続きます。これは日本の梅雨時期よりも少し高い湿度で、年間を通じて如何に分析装置に厳しい環境であるかがお分かりいただけると思います。ご存知のようにFTIRの干渉計の構成要素であるビームスプリッターにはKBr(臭化カリウム)が使われています。KBrは吸湿性が非常に高く、吸湿すると曇って赤外光のスループットが落ちるために、その保護が長期にわたって良いデータを得る上で重要となります。当社のFTIRは高性能で操作性が良いことはもちろんのこと、IRPrestige-21とIRAffinity-1の両機種に除湿装置を標準装備しているので、安心して使えるとお客様に大変満足して 頂いています。除湿機能の付いていないFTIRを使われているお客様の中には、アクリルのケースでFTIRにカバーをし、そこにシリカゲルを入れた上で24時間連続運転(念には念を入れ細心の注意を払って)されておられる会社もありました。
 さて、東南アジアの湿度事情はこの程度にして本題に入ります。今回は東南アジア及び南アジアの国々の中から、インドに着目してその市場とアプリケーションを紹介させていただきます。インドは経済発展が著しいBRICsの一角として世界から注目されており、東南アジア及び南アジアにおける分析機器市場として大きなウエイトを占めています。

インドにおけるFTIP市場
図1 インドにおけるFTIP市場

インドのFTIR市場
 インドでは1970年に当社が現地商社Toshvin Analytical(トシュビン アナリティカル)社と代理店契約を締結して以来、Toshvin Analytical社に分光分析装置(FTIR,紫外可視分光光度計、原子吸光分析装置等)や熱分析装置、ガスクロマトグラフ、ガスクロマトグラフ質量分析計の販売、据え付け、修理を全て委託してきました。Toshvin Analytical社はインド最大の都市ムンバイに本社があり、その他の主要都市12か所に支店があります。これらの拠点で約100名の営業・サービススタッフが働いています。また、近年インドに於いても日本と同様にアプリケーションサポートやメソッド開発が重要になってきています。そこで当社は2006年4月にムンバイ、2008年2月にデリーの2か所に分析装置を完備したカスタマーサポートセンターを開設し、インドでの分析サポート体制を整えました。Toshvin Analytical社とカスタマーサポートセンターの貢献により、当社FTIRの販売台数は過去5年で2倍以上になりました。この伸びはインドの経済成長率を大きく上回っています。インドのFTIR市場規模は約350台(2008年)と言われていますが、市場ニーズの大半を占めるFTIR汎用・中級機市場で、当社のインドにおけるシェアは約40%を占め、FTIRに対してのSHIMADZUブランドが定着しています。
 当社FTIRの昨年度の市場区分を図1に示します。市場規模は製薬関連が最も大きく、その次に大学等教育機関、化学工業、研究機関と続きます。なかでも製薬関連は全体の50%以上を占め、非常に重要なFTIR市場と言ます。

インド製薬業界のマーケットサイズ
図2 インド製薬業界のマーケットサイズ
(単位:USD Billion)

インドの製薬業界
 インドには製薬関連企業が2万社以上ありますが、ジェネリック医薬品関連の企業がほとんどで、製品単価が安いこともあり、金額ベースでは世界市場の1%にも達していません。ただし、その平均成長率は過去5年間で年11%以上と言われています。1970年代からAPI(Active Pharmaceutical Ingredient、原薬)と製剤の輸出が始まり、2000年以降急速に伸張しています。図2は2004年以降のインド製薬業界の国内外向けの生産額 1) で、2005年までは国内向けが過半数でしたが、2006年から海外向けが上回り、その成長率も高くなっています。インドではもともと高価な薬が購入できない貧困層に対して安価な薬を提供するために多くの製薬企業が設立されました。2005年以前は医薬品の特許は物質特許(Product Patent)ではなく製法特許(Process Patent)であったために、欧米の新薬をコピーし安価に製造することでインドの医薬業界は発展してきました。現在ではインドは有力なジェネリック医薬品企業を多数抱える世界有数の医薬品生産国になり、日本のみならず世界中に医薬品を輸出しています。U.S.Food and Drug Administration(アメリカ食品医薬品局:FDA)が認可を与えている医薬品工場の数で、インドはアメリカ以外で最も多く、高い品質の製品を製造、供給していることが分かります。また、それを支える技術者の技量も高く、インドには薬学や理工系の大学を卒業した技術者がアメリカの5倍以上いると言われています(人口は約4倍弱です)。
 製薬企業における業務の多くは詳細にマニュアル化され、それを徹底しています。そこで品質管理の一つの手段としてFTIRが使われており、国内・海外向けに製造されるAPIや製剤の確認試験、異物分析などに数多くのFTIRが使われています。製品の赤外スペクトルを測定し、不純物が存在していないか、規格に適合した製品ができているかなどのチェックが主目的です。製薬企業では薬局方に準じた方法で測定を行う必要があるために、多くの場合錠剤法や液膜法のような基本的な透過法で試料が測定されてきましたが、薬局方で拡散反射(DRS)法や全反射(ATR)法での測定が認められるようになると、より簡単で迅速に測定できるこれらの方法も多く使われるようになってきました。また、研究開発用や品質管理用に赤外顕微鏡が使われるケースも増えてきました。

インドにおける赤外線顕微鏡市場
 インドでは大学や研究機関の他に、製薬、プラスチック、自動車、電子電気機器業界などで赤外顕微鏡が使われています。包装材業界では多層フィルムの分析やフィルムの異物分析に、自動車や電子電気機器業界では故障解析のための有機微小異物分析に使われています。製薬業界ではクレーム解析にも用いられますが、APIやその結晶多形の確認等、研究開発目的に使用されることが増えています。図3に赤外顕微鏡ATR法で測定したAPIの一種の赤外スペクトルを示します。これらは製剤中で結晶多形(化学式が同一で結晶構造の異なるもの)が異なる部分を測定したものです。赤外顕微鏡を使うことによって微小部分の測定ができますので、他の成分やプラセボの影響を受けずに対象物の赤外スペクトルを得ることができます。

製剤中の結晶多形の異なるAPIのIRスペクトル 顕微FTIR ATR法(Ge プリズム)
図3 製剤中の結晶多形の異なるAPIのIRスペクトル
顕微FTIR ATR法(Ge プリズム)
All India Forensic Science Conference 2009
All India Forensic Science Conference 2009

 犯罪科学分野では、日本の科学捜査研究所と同様に、各州に設置されている法医学研究所において、赤外顕微鏡を用いた薬物の分析や偽札の分析なども行われています。筆者もインドのグジャラート州アーメダバードで行われた「All India Forensic Science Conference 2009(全インド犯罪科学カンファレンス2009)」に出席して、「犯罪捜査における赤外顕微鏡を用いたアプリケーション」について発表しました。まだ,一部の州でしか赤外顕微鏡が使われていないため、様々な犯罪捜査や遺留品の分析・解析について問い合わせがありました。3日間の会期中、毎日多数の発表があり、インド国内のみならずアメリカ、ドイツ、イギリスやフランスなど様々な国から犯罪科学関係の多数の研究者や技術者が集まり、招待講演や技術発表が行われました。発表内容も犯罪捜査の方法や解析、死体の確認方法、逃亡犯の追跡技術など多岐にわたっていました。先日起こったムンバイでのホテル爆発テロの影響もあり、聴講者も500人以上と犯罪科学やその科学捜査への関心が高いことを表していました。

インドの今後
 製薬関連や大学、政府研究機関を中心にFTIRの利用はここ数年でかなり進んできました。最近では、ライフサイエンス、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー分野の研究用に高機能なFTIRのニーズが高まってきています。
 インドの製薬業界でも昨年からの景気後退の影響を受け、予算を凍結している企業も少なくはありませんが、新しくバイオ関連棟を新設する企業や工場を拡張している企業もあります。今年に入って数社の製薬会社を訪問したところ、本年度も約7~10%の成長率を見込んでいるとのことで、マイナス成長になるという意見は聞こえてきませんでした。この世界的に厳しい景気後退の中においても成長が見込まれるのは、インド人の多くにみられる楽天的な気質の「No problem, Sir!」なのか、あるいはインド製薬業界の底力なのかはわかりませんが、常に前向き思考で進んでいくのがインド人です。コストダウンが激化する日本でも、インド企業への関心が高まっています。昨年は日本の大手製薬企業がインド最大手の製薬企業を買収したことで話題になりました。インドが今後の世界の景気を変えていく原動力になるかもしれません。これからもますますインドから目が離せません。

参考文献

  1. CRIS INFAC & Pharmecil

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