FTIRに使用される「鏡」について

FTIRノウハウ・実務編

FTIR TALK LETTER vol.9(2007)
FTIRの内部がどうなっているのかについてはFTIR-TALK LETTERでも幾度か取り上げてきましたが,今回はFTIRで使用されている「鏡」についてご紹介します。

1. なぜ「鏡」なのか?

FTIRのように光を利用する装置ではその内部で光を集光したり平行な光にする必要がでてきます。このような用途によく利用され,皆さんも真っ先に思いつくのは「レンズ」ではないかと思います。虫めがねで太陽の光を1点に集めて紙を焦がしたりした経験はどなたでもお持ちでしょう。光を用いた装置として我々にもっとも身近な装置の一つであるカメラでは複数のレンズを組み合わせてフィルム上(現在ではCCDの様な固体撮像素子上と言った方が一般的でしょうか)に撮影したい像を結像させます。しかしFTIRではレンズの利用は難しいのです。

FTIRにレンズを使用する場合,そのレンズは以下の条件を満たさなければなりません。

1) 赤外線を透過する範囲が広く,その範囲で大きな吸収がある領域がないような材料で作られていること
2) 屈折率が大きすぎないこと
3) レンズに加工しやすい特性を持つこと
4) 比較的安価であること
5) 耐環境性が良好であること

これら1)〜5)の全てを兼ね備えた材料は現在のところ開発されていません。たとえば,FTIRの干渉計内にはビームスプリッタという光学素子が使われていますが,この材料には臭化カリウム(KBr)が使われるのが一般的です。この臭化カリウムは1),2)の特性は満たしますが潮解性(結晶が空気中の水を取り込んで溶解する性質)を持つため,低湿度の環境で使用しなければなりません。したがって,5)の耐環境性という点で問題があります。
また,フッ化カルシウム(CaF2)という材料は2),3),4)は良好です。しかし赤外光を透過する範囲が狭く,1000cm-1以下の指紋領域と呼ばれる領域については赤外光をほとんど通しません。そのため,アプリケーションが限定されてしまいます。
これらのことから,FTIRではレンズやプリズムなど,素子の内部を光が透過する素子を使用せず,光を反射する「鏡」を使用しているのです。

2. 鏡の種類

FTIRではレンズやプリズムの役割を果たさせるために以下のような「鏡」を使用しています。

1) 平面鏡
名前のとおり,反射面が平面の鏡です。光を任意の方向に反射したい場合に使用します。

平面鏡
図1. 平面鏡

3) 放物面鏡
y=ax-2で表される放物線を軸yの周りで回転させた時にできる曲面を持つ鏡が放物面鏡です。放物面鏡は矢印のような平行光を入射すると光を1点に集めることができます。そのため,平行な光を1点に集めたり,1点から出た光を平行にするのに使用します。
(図3中の矢印のような平行光は反射されて点bに集まる)

放物面鏡
図3. 放物面鏡

4) 楕円面鏡
x2/a2+y2/b2=1で表される楕円を軸yの周囲に回転してできる曲面の一部を持つ鏡です。楕円面には2つの焦点があり,どちらか一方の焦点から照射された光はもう一方の焦点位置に集まります。これを利用しています。
FTIRでは試料室内で集光した光を再び赤外検出器に集光させるのに使用しています。
(焦点 bから照射される光は焦点aに集まる)

楕円面鏡
図4. 楕円面鏡

3. さいごに

今回はFTIRで使用されている「鏡」についてご紹介しました。島津製作所製FTIRでは装置の側面から赤外光を平行光として取り出すことができます。この平行光を使って測定するための特殊な付属装置を製作させていただくことがありますが,その際,今回紹介したような鏡を組み合わせて使用しています。


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