FTIR測定法のイロハ -高感度反射法,新版-

FTIR測定法のイロハ -高感度反射法,新版-

FTIR TALK LETTER vol.18 (2012)

フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)には各種測定手法があります。それらのうち,臭化カリウム(KBr)錠剤法,液膜法,拡散 反射法,正反射法については,FTIR TALK LETTER Vol.14~Vol.17でご説明しました。今回は,主に金属基板上に形成した薄膜 を分析する際に用いられる高感度反射法(Reflection Absorption Spectroscopyを省略してRAS法とも呼ばれています) について,入射角の違いや偏光子を使用した場合に得られる赤外スペクトルの違いについて,実例を挙げながらご紹介します。

1. 高感度反射法とは

高感度反射法とは主に金属基板上に形成された有機薄膜を測定するための手法で,Vol.17でご紹介した正反射法と同様に,入射角と同じ角度で反射された光を検出します。正反射法が法線に近い角度で赤外光を試料に入射させることに対して,高感度反射法は水平に近い70°~85°で赤外光を試料に照射して測定を行ないます。Langmuir- Blodgett膜(LB膜)のように非常に薄い膜の分析や,分子配向研究にも使用されている手法です。
図1に金属基板上薄膜への入射光および反射光イメージを示します。

金属基板上薄膜への入射光および反射光イメージ
図1. 金属基板上薄膜への入射光および反射光イメージ

正反射法では法線に近い角度で光を入射させますが,高感度反射法では70°~85°の入射角で光を試料に照射します。入射角を大きくすることにより,薄膜内を透過する光の光路 長が長くなり,より薄い膜の測定が可能となります。
入射角の大きい高感度反射法の場合には,偏光の影響により,上記の光路長の影響以上の感度増加が起こります。
入射光と反射光を含み,金属基板と垂直な面を入射面と定義し,入射面に平行な電場ベクトルを持つものを平行偏光(P偏光),垂直な電場ベクトルを持つものを垂直偏光(S偏光)とします。
図2のように、平行偏光(P偏光)では、電場ベクトルは入射面に対して平行であるために定常波が形成されます。定常波の振幅は入射角が大きくなるにつれて増幅され,それに応じて得られるピーク強度も大きくなります。一方,垂直偏光(S偏光)では,電場ベクトルは互いに打ち消し合い,ほとんど定常波が形成されないため,ピーク強度は極めて小さいものとなります。
偏光子を使用し,この垂直偏光(S偏光)をカットすることで,さらにピーク強度を強めることが可能となります1)-3)

金属面に入射した偏光の振る舞い
図2. 金属面に入射した偏光の振る舞い

2.高感度反射測定装置

図3に入射角可変反射測定装置VeeMAXⅡの外観を示します。VeeMAXⅡは30~80°の範囲で入射角を変更でき,オプションで偏光子の取り付けも可能です。

入射角可変反射測定装置VeeMAXⅡ
図3. 入射角可変反射測定装置VeeMAXⅡ

3. アルミミラー上LB膜の分析

3-1. アルミミラー上LB膜のスペクトル

図4にアルミミラー表面に形成されたLB膜(ステアリン酸カドミウム)を入射角70°で測定した赤外スペクトルを示します。

ステアリン酸カドミウム薄膜はCOO基で基板に接しており、主鎖(CH3-(CH2)16-)は基板に対して垂直方向に伸びています。高感度反射法では、基板に対して垂直方向の振動が強く検出されるために,1450cm-1付近のCOO対称伸縮振動によるピークが強くなります。
なお,上記のLB膜を透過法で測定した場合,基板に対して平行方向の振動2900cm-1付近のC-H伸縮振動)が強く検出されますので,高感度反射法で得られる赤外スペクトルとは異なります。

アルミミラー上LB膜の赤外スペクトル
図4. アルミミラー上LB膜の赤外スペクトル

3-2. 入射角

入射角70°,75°,80°で測定した赤外スペクトルの重ね書きを図5に示します。試料のピーク強度と入射角の関係を分かりやすくするために,1400cm-1付近を拡大して表示します。

図5では,入射角が大きくなるにつれてピーク強度が強くなることが分かります。ただし,入射角を大きくすることによって測定に使用できる赤外光量が減少するため,ノイズが大きくなる傾向にあります。

赤外スペクトルと入射角の関係
図5. 赤外スペクトルと入射角の関係

3-3. 偏光子の利用

図6に偏光子を使用した場合と使用しない場合の赤外スペクトルの重ね書きを示します。入射角は80°としました。

図6より,偏光子を使用して平行偏光(P偏光)のみを検出することにより,さらにピーク強度が大きくなることが分かります。ただし,偏光子を用いることで,測定に使用できる赤外光量が減少するためにノイズが大きくなります。
ノイズが大きくなった場合には,積算回数を増やす,もしくは光量が少ない場合にも高感度なMCT検出器での測定をお勧めします。

偏光子有無による赤外スペクトルの違い
図6. 偏光子有無による赤外スペクトルの違い

参考文献

  1. 1) 実用分光法シリーズ② 赤外分光法
    尾崎 幸洋 編著 (株)アイピーシー
  2. 2) 機器分析実技シリーズ 赤外分光法
    田中 誠之、寺前 紀夫 著 共立出版(株)
  3. 3) 分光研究 Vol.59 No.5 p.248-260(2010)
    増谷 浩二、落合 周吉 (社)日本分光学会

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