近赤外領域での測定と注意点 その2:拡散反射測定法,ファイバーを用いた測定,正反射測定法

FTIRノウハウ・実務編

FTIR TALK LETTER vol.10 (2008)
 FTIR TALK LETTER Vol.9「近赤外領域での測定と注意点 その1」では,主に近赤外領域における透過測定法の特長,測定上注意すべき点について紹介しました。「近赤外領域での測定と注意点 その2」では透過測定法以外の測定方法においても中赤外領域の測定と異なる特長,注意すべき点がありますので,実際のサンプル測定例をまじえご紹介いたします。

1. 近赤外吸収の特長

 前回のおさらいとなりますが近赤外吸収の特長について再度確認したいと思います。
 近赤外光とは一般に波数12,500~4,000cm-1(波長800~2,500nm)の光のことを示します。近赤外光の吸収は中赤外光の吸収と同様に,物質の振動に基づくものですが,中赤外領域での吸収の倍音,結合音であることから,吸収強度がかなり弱くなります。このため吸収の弱いサンプルの測定は難しくなりますが,サンプルを希釈せずに測定できることが特長となります。

2.拡散反射測定

 近赤外吸収測定においても透過測定法のほかにいくつかの測定方法があります。近赤外領域においてよく行われる測定のひとつに拡散反射測定があります。
 近赤外領域では透過測定と同様に拡散反射測定においても試料の吸収が弱いため,KBr粉末による希釈などの前処理は必要なく,直接測定が可能です。拡散反射測定に用いられるアタッチメントには拡散反射装置や積分球があります。
 拡散反射測定は対照と呼ばれる基準反射体をバックグラウンド測定(リファレンス測定)に用います。透過測定法と異なり絶対値を求める簡単で有効なアタッチメントは市販されていないため,バックグラウンド補正に用いた反射体との相対反射率の測定となります。
 バックグラウンド補正に用いられる反射体としては金(蒸着)ミラーがよく用いられます。金ミラーは可視光領域には吸収がありますが近赤外領域においては非常に高い反射率を示します。この他の反射体としてはアルミミラー,硫酸バリウムなどが用いられる場合もあります。
 拡散反射における注意点としては近赤外吸収の大きさが測定するサンプルの粒子径,粒子密度で変わることが上げられます。粒子径が小さいほど光路長が増し,密度が大きいほど試料粒子が吸収する機会が増え吸収強度は大きくなります。
 拡散反射測定で使用されるアタッチメントにNIR用積分球があります。このNIR用積分球は粉末,錠剤,ペーストなどいろいろなサンプルが測定出来ます。
 対照としては鏡面ではなく表面が粗面(散乱面)の金拡散反射ミラーが用いられます。リファレンス測定後,アタッチメント上部に設置された窓の上にサンプルをおいて測定します。

図1:L-アルギニンの近赤外拡散反射スペクトル
図1:L-アルギニンの近赤外拡散反射スペクトル

 図1は金拡散反射ミラーを対照としてL-アルギニンを測定した結果です。
 サンプルの希釈をせずにそのまま積分球の上部に設置することで測定ができます。
 また近赤外領域では可視光領域と同様にガラス,石英の吸収がほとんど見られません。このためサンプルをガラス容器に入れたままでも内容物の拡散反射測定が可能です。

 図2にガラス容器にいれたままL-アルギニンの拡散反射測定をした結果を示します。
 比較のためにガラス容器に入れない状態で測定したデータ(図1と同じ)も示しています。これらに差がないことが確認できます。

図2:L-アルギニンの近赤外拡散反射スペクトル (ガラス容器あり・ガラス容器なし)
図2:L-アルギニンの近赤外拡散反射スペクトル
(ガラス容器あり・ガラス容器なし)

 近赤外領域においては中赤外領域と比較して吸収が弱いことを利用しプラスチック製の袋に入ったサンプルを袋ごしに直接測定して内容物の確認試験を行うといったこともされています。
 薄いプラスチック製の袋(ポリ袋)の場合,吸収が極めて小さいために袋自体の吸収より内容物の吸収が大きく得られます。

 図3にプラスチック袋に入れたL-アルギニンの拡散反射測定結果を示します。
 比較のために容器に入れず直接測定したデータ(図1と同じ)も示していますが大きな差がないことが確認できます。もちろん小さいながらも5780cm-1付近や4250cm-1付近にプラスチック袋の吸収が見られますが吸収スペクトル全体にはプラスチック袋の大きな吸収は見られず内容物のスペクトルが測定できます。

図3:L-アルギニンの近赤外拡散反射スペクトル (プラスチック袋あり・プラスチック袋なし)
図3:L-アルギニンの近赤外拡散反射スペクトル
(プラスチック袋あり・プラスチック袋なし)

 このように近赤外拡散反射測定法においては中赤外領域での測定で必要な希釈操作といった前処理の必要がなく測定が容易になります。

3. ファイバーを用いた測定

図4:L-アルギニンの近赤外反射スペクトル
(ファイバ使用)

 サンプルが大きく装置の試料室に入れることができない場合に役に立つアタッチメントとしてファイバープローブがあります。ファイバーを用いた測定は中赤外領域でも行われていますが,中赤外領域全域で透過効率のよいファイバーは現在開発段階です。このためファイバー素材自体の吸収が原因で測定できない波数領域があるなど測定できるサンプルが限定されることのある方法となっていました。
 一方近赤外領域においては近赤外領域全体で透過効率のよいファイバーが使用でき,比較的簡単にファイバー測定が可能です。
 図4に近赤外反射型ファイバープローブを用いた反射測定例を示します。光がファイバーを通ることにより減衰するため積分球を用いた測定に比べノイズは大きくなりますが積分球と同様のデータが得られます。
 積分球を用いた測定と同様にプラスチック袋に入れたままの測定なども可能です。

4. 近赤外正反射測定

図5:ポリスチレンの近赤外正反射スペクトル
図5:ポリスチレンの近赤外正反射スペクトル

 ここまでに拡散反射やファイバーを用いた測定などをご紹介しましたが,さらに正反射(反射吸収)測定も可能です。  正反射測定では正反射測定付属装置を用います。近赤外での正反射測定においてもリファレンス測定には金ミラーやアルミミラーなどが用いられます。吸収強度が弱いことから中赤外領域での測定と比べ金属上に厚く形成されている層の測定などが簡単にできます。  図5に正反射測定付属装置を用いた近赤外反射測定例を示します。サンプルは金属上の0.5mm厚ポリスチレン層です。

図6:薄膜の近赤外正反射スペクトル
図6:薄膜の近赤外正反射スペクトル

また近赤外領域では中赤外領域よりも膜厚計算が比較的容易に行えます。図6に金属上の薄膜の測定結果を示します。近赤外領域ではサンプルの吸収が小さいためサンプル吸収にほとんど影響されず干渉縞が見られます。このため近赤外スペクトルは膜厚の測定にも力を発揮します。

図7:膜厚計算画面
図7:膜厚計算画面

 図6のサンプルでは7000~6000cm-1の波数範囲で,屈折率1.5を入力して計算を行うと膜厚が39.5μmとの膜厚計算結果が得られました。図7に実際の膜厚計算画面を示します。

5. まとめ

 今回は近赤外領域における拡散反射測定法,ファイバーを用いた測定,正反射測定の特長や注意点などについてご紹介いたしました。
 中赤外領域の測定と比較して前処理なく測定ができることなど有利な点も多くありますが,中赤外領域に比べるとスペクトルのデータベースが充実していない,結合音など官能基との帰属がはっきりさせにくい吸収があり定性情報が得るのが難しいなどの不利な点もあります。
 これらの近赤外領域の特長,注意点を把握していただくことで測定手法や分析手法の選択の幅を広げてより効率的な測定をして頂けるものと思います。

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