形状記憶合金(歯科矯正線材)の温度特性評価 / DSC

形状記憶合金(歯科矯正線材)の温度特性評価 / DSC

スマートマテリアルはセンサ機能やアクチュエータ機能等を、それ自身に内包した新素材を意味し、これまでの複雑な機械システムの簡素化や小型化を実現することができる可能性を持つため、近年盛んに研究開発が行われています。
スマートマテリアルの一種として注目されている「形状記憶合金」は、温度変化や応力誘起に起因する相変態や逆変態によって材料の微細構造が変化することにより形状記憶効果や超弾性効果を示し、医療から家電、衣服、ロボットなどの幅広い分野で用いられる様になってきています。
ここでは形状記憶合金が実用化されている歯科矯正材(線材)を試料として、示差走査熱量計を用いて温度特性を評価した例をご紹介します。

試験結果(Af点温度の測定)

形状記憶合金歯科矯正用線材は、長期間にわたり弱く一定した矯正力を歯に与えることができ、患者の通院回数の低減や矯正材装着による不快感を抑えられるという利点があります。また、矯正力の強さは逆変態終了温度(Af点)とヒトの口腔内温度との差に依存することが知られており、異なる逆変態点終了温度を有する数種類の矯正用線材が患者の歯周状態、疼痛感度などに応じて使い分けられています。

試料Bに対するDSC曲線

試料Bに対するDSC曲線

評価対象としての試料には、歯科矯正用線材として用いられている変態点注1)の異なる3種類のNi-Ti系形状記憶合金線材(試料名A、B、C と表記)を使用しました。Ni-Ti系形状記憶合金の温度を上昇または下降させた場合、合金中のある相が他の相へと変態する変態点が現れます。
例として試料BのDSC曲線を示します。
この曲線から変態点温度を読取ることができ、この例ではMs点とMf点がそれぞれ約-13℃と21℃付近,またAs点とAf点がそれぞれ約8℃、37℃であることが分かります。

注 1) 各変態点は以下のように定義されています。

  • Ms 点: 冷却の際、母相(オーステナイト)からマルテンサイトへの変態が開始される温度
  • Mf 点: 冷却の際、母相(オーステナイト)からマルテンサイトへの変態が終了する温度
  • As 点: 加熱の際、マルテンサイトから母相(オーステナイト)への逆変態が開始される温度
  • Af 点: 加熱の際、マルテンサイトから母相(オーステナイト)への逆変態が終了する温度(負荷を与えられて変形した形状記憶合金はAf点以上の温度環境に置かれると形状回復を示します)

ヒトの口腔内温度において試料Aは比較的強い矯正力を、試料Bは比較的弱い矯正力を示すもの、また試料Cは口腔内温度が40℃を超えた時にのみ矯正力を示すもので、それぞれ特徴を有しています。各試料におけるAf点温度の公称値はTable 1となっています。

Table1 試料

試料 形状記憶合金(歯科矯正線材)
試料名 A B C
Af点温度(℃) 27 35 40

示差走査熱量計DSC-60 Plus

示差走査熱量計DSC-60 Plus

セパレータの融解、電解質の変質、分解等、加熱時の熱特性の評価に有効です。熱量測定範囲は約3倍(当社比)の±150 mW に拡大し、熱量変化の大きな反応性評価や電子部品で使用される接着剤等の熱硬化性樹脂の硬化反応の測定についても、十分なダイナミックレンジを確保しています。