メタボロミクスの前処理(生体試料)

血清中の代謝物の抽出手順

血清中の一次代謝物を抽出し,GC-MSないしLC-MSで測定するための前処理の手順をご紹介します。 なお,使用器具および使用試薬の添加量などの詳細は前処理ハンドブックをご参考にしてください。

このページでご紹介する手順は,水・メタノール・クロロホルム混合溶媒を抽出溶媒とし,これを液体試料に加えて除タンパクを行い,水添加ののち水層を回収して主に親水性代謝物を抽出する方法です*1
GC-MS分析では気化した化合物のみ検出が可能なため,気化しにくい化合物に対しては必ず誘導体化が必要です。メトキシム化,TMS化の2段階の誘導体化を行います。

 
 血清の前処理手順
 

①溶媒による除タンパク

1.5mLチューブに血清を取ります(図1)。内部標準を用いる場合は内部標準をチューブ内に添加します。水:メタノール:クロロホルム=1:2.5:1の混合溶媒(抽出溶媒)をチューブ内に加えると,タンパク質が変性し,チューブ内が白く濁ります(図2)。抽出溶媒は事前に大量に調製しておき,常温で1Lの試薬ビンなどにストックしておくと便利です。なお,50mLチューブなどに取った抽出溶媒と内部標準溶液をあらかじめ混合してから,抽出溶媒をチューブに導入することもできます。これをボルテックスミキサーでよく混和し(図3),加温振とう器で37°Cに保温し,30分間振とうします(回転数は1200rpm程度)(図4)。振とう後,4°C,16000Gで3分間遠心します(図5)。溶液は2層に分離し,変性したタンパク質がその境界面に沈殿します(図6)。先端が,沈殿やクロロホルム層に触れないよう注意深くピペットチップをチューブ内に挿入し,上清のみを取り,新しいチューブに回収します(図7)。

 

②一次代謝物の抽出

上清を回収した新しいチューブに,超純水を添加します。溶液中に残存しているタンパク質が変性し,溶液が白濁します(図8)。ボルテックスミキサーでよく混和し(図9),4°C,16000Gで再び3分間遠心します。GC-MSを用いる場合は,この遠心後のサンプル(図10)の上清をを取り,新しいチューブに回収します(図11)。

 

③サイズ排除フィルターによる除タンパク(LC-MS分析の場合)

LC-MS分析では,移動相に有機溶媒を使用するため,分析中に試料が高濃度の有機溶媒環境にさらされます。これにより分析中に除去しきれなかったタンパク質が析出すると,ラインを閉塞させる原因となり分析がストップしてしまいます。このトラブルを避けるため,LC-MS分析にかける場合は,抽出後にサイズ排除フィルターを用いて再度タンパク質を除去する操作を行っています。タンパク質除去用のサイズ排除フィルターを付属のチューブにセットします(図12)。フィルターの上に上清を添加し,キャップを閉めます。遠心機にセットし,4°C,16000Gで60分間遠心します(図13)。遠心後,フィルターをチューブから取り外します。

 

④乾燥

穴の開いたチューブキャップを用意します。1.5mLチューブのキャップに注射針などで小さな穴を2~3個開け,ハサミを使ってチューブから切り取ります(図14)。これを,上清を回収したチューブに取り付けます(図15)。この状態で遠心エバポレータで25分間処理し,溶液中に含まれるメタノールを気化させます(図16)。25分間処理後,キャップはそのままにしてディープフリーザーに入れます。15分間ほど置き,溶液が完全に凍結していることを確認した後,凍結乾燥機で処理します(図17)。なお,前処理後に試料を保管する必要がある場合は,LC-MS分析用サンプルは乾燥後のサンプルをディープフリーザー内で保存,GC-MS分析用サンプルは誘導体化の際に水を含むと適切に誘導体化処理ができないため,常温のデシケーター内で保存します。

 

⑤再溶解(LC-MS分析時)

凍結乾燥後のチューブに超純水100μLを添加し(図18),ボルテックスミキサーでよく撹拌します。バイアルに分注し(図19),LC-MSで分析します。

 

⑥誘導体化(GC-MS分析時)

メトキシアミン塩酸塩を秤量します。秤量したメトキシアミン塩酸塩を,濃度が20mg/mLになるようにピリジンに溶解します(図20)。メトキシアミンピリジン溶液は,1チューブに付き80μL必要なので,試料数に合わせて必要量を調製します。
※メトキシアミン塩酸塩は溶けにくいことがあるので,残滓が残っているように見える場合はソニケーター等で完全に溶解してください。

凍結乾燥後の試料のチューブ壁には白~黄白色の固体が付着しています(図21)。ここに20mg/mLメトキシアミンピリジン溶液を80μL加え(図22),ソニケーターで残滓が分散するまで処理します(図23)。
※サンプルに水を含むと誘導体化効率が悪くなるので,水が混入しないよう十分に注意してください。

加温振とう器の温度を30°Cに設定し,90分間処理します(図24)。
処理後,チューブにMSTFAを40μL加え(図25),加温振とう器の温度を37°C,に設定し,さらに30分間加温振とうします。
残滓が残っている場合は16000Gで3分間遠心し(図26),上清をGC-MSのバイアルに回収し,分析に供します(図27)。

 

*1 : Serum metabolomics as a novel diagnostic approach for gastrointestinal cancer. 
(Ikeda A, Nishiumi S, Shinohara M, Yoshie T, Hatano N, Okuno T, Bamba T, Fukusaki E, Takenawa T, Azuma T, Yoshida M. Biomed Chromatogr. 2012 May;26 (5):548-58. doi: 10.1002/bmc.1671. Epub 2011 Jul 20.)

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