高感度ガスクロマトグラフシステムを用いた人工光合成研究におけるギ酸の高感度分析

高感度ガスクロマトグラフシステムを用いた人工光合成研究におけるギ酸の高感度分析

人工光合成の研究テーマの一つである光化学的二酸化炭素還元反応では,反応生成物としてギ酸が主に生成する場合があります。ギ酸の分析には,一般的に,液体クロマトグラフ,イオンクロマトグラフ,キャピラリ電気泳動などの機器が用いられていますが,有機溶媒中に溶け込んだギ酸を分析するためには水や移動相で10倍以上に希釈する必要があり,低濃度分析が難しい場合がありました。一方,ガスクロマトグラフ(GC)は,有機溶媒を希釈せずに直接測定することが可能であり,ギ酸を高感度に検出するBID-2030を使用することで,ppmオーダーでの分析が可能となります。
ここでは,人工光合成の研究で用いられる,N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒とした実試料中に含まれるギ酸を,高感度ガスクロマトグラフシステムを用いて分析した例をご紹介します。

人工光合成試料の測定

試料溶液には,二酸化炭素還元反応液として使用されるN,N-ジメチルアセトアミド溶媒にTetraethylammonium tetrafluoroborate(NEt4BF4)を0.1M溶解させた溶液を用いました1)。試料溶液にギ酸を10ppm(v/v)添加し,10回繰り返し測定したところ,ギ酸のピーク面積値が徐々に減少していくことが確認されました (Fig.1)。
試料に電解質として共存するNEt4BF4がGC注入部に残留し,そこにギ酸が吸着することが原因と推測されたため,GC測定前に陽イオン交換カートリッジによる NEt4BF4除去を行いました。 NEt4BF4除去後の試料を10回繰り返し分析したところ,良好な再現性が得られました(Fig.2)。陽イオン交換カートリッジを用いて試料溶液中のカチオン(NEt4+)をH+に交換することで,塩の影響が取り除かれたためと考えられます。

1)本試料は,国立大学法人東京工業大学 大学院理工学研究科 石谷治教授よりご提供いただきました。



回収率確認のために,ギ酸を1,10,50 ppm(v/v)添加した試料溶液を前処理を行った後,GC測定しました。回収率はほぼ100%となりました。また,再現性確認のために,ギ酸を10 ppm(v/v)添加した試料溶液を5回,それぞれ前処理を行い測定しました。



今回検討に用いた試料では陽イオン交換カートリッジを用いた前処理が有効でしたが,試料中の塩濃度が高く充分な効果が得られない場合は,繰り返しカートリッジ処理を行うことが必要です。塩や溶媒の種類および濃度が異なる場合は,試料ごとに確認することが必要です。また,硫酸塩や塩酸塩を含む試料を陽イオン交換カートリッジで処理すると,強酸が生じてカラムなどを腐食する可能性がありますのでご注意ください。


 

 

高感度ガスクロマトグラフシステム

高感度ガスクロマトグラフシステム

BID検出器を搭載した高感度ガスクロマトグラフシステムです。BIDは,誘電体バリア放電プラズマによるイオン化法を用いた汎用型検出器であり,
(1)高感度,
(2)あらゆる成分を検出,
(3)長期安定性 
を特長としています。
 

人工光合成研究向けガスクロマトグラフのご提案

ppmレベルの高感度分析が必要な場合
一種類のカラムで分析できる場合

 
高感度ガスクロマトグラフシステム

高感度ガスクロマトグラフシステム
(Nexis GC-2030 + BID-2030)

対象成分が多く,
一種類のカラムで分析できない場合

 
島津システムガスクロマトグラフ (GC-2014)

島津システムガスクロマトグラフ (GC-2014)

高感度ガスクロマトグラフシステム
・HeとNe以外のあらゆる成分をppmレベルで高感度分析できる
・カラム等の分析条件を自由に変更できる
・目的成分以外の成分も同時に検出することができる
・高純度ヘリウム(99.9999%)が必要
・一種類のカラムで分離できない場合は,カラムを付け替えて測定する必要がある(安定化時間が必要)
システムGC
・一台の装置に複数の分析ライン(カラム)を搭載するため多成分分析に対応できる
・分析条件があらかじめ最適化されている
・気相と液相の両方を同一GCで測定することができる
・無機化合物については,TCDを使用する場合,ppmオーダーでの高精度な分析は難しい
・分析条件を簡単に変更できない
・目的成分以外の成分を検出できない