複合材料の新たな設計勘所と試験評価技術の最先端

Q : CFRP材料のロバスト性はどのように評価しているのか知りたい。

A : FRPの構造・材料の設計においては,温度や速度の影響,圧縮強度の考え方,強度や破壊エネルギーに関しては,層間特性が支配因子であることを,今回の講演でお伝えしたつもりです。一方で,製品設計の観点では,成形加工時の,製造過程における安定性にも気を配る必要があります。特に,繊維の分散性や直進性,樹脂の含浸性が,品質に大きく影響を与えるので,仕様に対する上限・下限を把握しておく必要があります。製品の内部の状態を知ることが大切ですので,やはりX繊CTなどを用いた評価分析が役立つと思われ,将来的に,生産ラインに組み入れることが望ましいと個人的には考えています。

Q : CC/FPの速度・温度依存性について,50°C,75°C,80°Cと温度別の試験の結果,80°Cの近似線の結果から相関性ありと判断しているように思われました。差し支えなければ80°Cのみで良しとする根拠をご教授願います。

A : ご指摘のとおり,時間と強度の関係において,80°Cの結果から,相関がある,と判断いたしました。一方で,この前後でご説明していますように,温度条件を時間に,時間条件を温度に可逆的に変換することができ,今回50°C,65°Cの条件を,80°C条件に変換して,時間を換算すると,ちょうど80°C相関関係の近似線に載ってくることが分かりました。この結果から,時間温度換算則を適用できる,と判断しております。

Q : 松尾先生の講演内容で面外せん断と圧縮試験に関する内容は連続,不連続繊維問わず適用できるものなのでしょうか?

A : 面外せん断については,連続でも不連続でも適用できますが,繊維の配向のばらつきによっては,評価結果にばらつきが生じることがありますので注意が必要です。圧縮試験については,特に今回は,熱可塑性樹脂を使った一方向連続繊維に対して,従来試験法では難しかったのを解決するために提案した試験法をご紹介しました。不連続繊維や,連続繊維でも擬似等方積層板や織物などでは,従来のASTM D3410などの方法でも適用できることは確認しております。

Q : 圧縮成形で繊維はちゃんと金型に応じて流動するのか?流動する場合はどのように流れるのか?繊維の配向などはどうなるか?配向による影響を設計時に考慮する必要があるのかどうか?

A : 今回特にご紹介したランダム配向FRPにおいては,従来と異なった流れ方をします。現在,それをシミュレーションと実験で解明するための研究を行っており,特徴的な力学挙動の評価方法を提案しようとしています。一方で,実験的には多少複雑な形状の金型であっても,しっかり繊維が流れることは確認されているので,シミュレーションと実際の比較で検証していく必要があると考えています。

Q : 最近は熱硬化樹脂でも高速硬化できるものが出てきているが,それと比べて,熱可塑性樹脂を使用することの利点は何か?

A : エネルギー吸収量の点でメリットが出ると考えられます。テープランダム材は層間滑りで破壊が進むため樹脂に支配される破壊様相を示します。このため,ポリプロピレンやポリアミドなどの伸びが大きい熱可塑性樹脂を使うと,複合材料も延性的な性質を示し,エネルギー吸収量が高まります。一方,熱硬化性樹脂の場合は脆性的な樹脂が多いため,複合材料も脆性的な性質を示します。
他にはリサイクルのしやすさ,振動溶着などの二次加工のしやすさについても熱可塑性樹脂はメリットがあると考えられます。

Q : 曲げ強度は樹脂に依存するということでしたが,DMAによるマスターカーブの測定は,樹脂ニートで実施しても良いということでしょうか?

A : そのとおりです。補足しますと,圧縮強度は一方向座位の繊維方向のせん断弾性率(G)(これは樹脂の弾性率に依存する値)に大きく依存します。曲げ試験で圧縮側(圧子が当たる側)で破壊する場合(今回お示しした例)は,曲げ強度は圧縮強度に依存する,つまり樹脂の弾性率に依存することになります。樹脂のDMAは樹脂の粘弾性を評価していることになるので,温度依存性,ひずみ速度依存性,時間依存性についても曲げ強度に対しても同じように依存することになります。

Q : FRP系において,繊維や樹脂を選定するにあたって界面強度の測定を実施したいのですが,熱可塑性樹脂にて界面強度を測定する良い手法はありますか?

A : 複合材料の繊維と樹脂の界面強度や特性は重要なパラメータであり,様々な手法が開発されています。例えば下記のような方法があります。それぞれ一長一短があります。
1.引き抜き法:樹脂の中に1本だけ繊維を入れて繊維を固めた後に繊維を引き抜く。そのときの強度と樹脂に埋め込まれている繊維の表面積から応力を計算する。この評価法の課題は繊維と樹脂を垂直に挿入して繊維を荷重方向に軸芯をあわせる難しさがある。この課題を解決するために,新たにピンホール式引き抜き法を開発した。薄い金属板に小さい穴をあけ樹脂を埋め込む。その中に繊維を垂直に入れ込むことで,試験片の準備と試験時の軸芯あわせの課題を解決した。
2.マイクロドロップレット法:繊維に樹脂のドロップレット(小さい粒)をつけて,その粒を繊維の長手方向にスライドさせて樹脂と繊維がはがれる時の強度を測定るする。この評価法の課題は,樹脂が球状であるため繊維の周りに応力が均一に分布していないため,表面積で割った見かけ上の応力が実際の応力とは異なる。
3.フラグメント法:薄い樹脂フィルムの中に繊維を埋め込む。繊維方向に樹脂フィルムを引張ると繊維が切れる。これ以上切断されない短さを測り繊維の限界剪断長さを求める。限界剪断長さになった時点の応力を求める。繊維の強度がばらつくので限界剪断長さにばらつきが生じる。
海上技術安全研究所 松尾のホームページにも界面強度の評価法について説明しが記載してありますのでこちらもご覧ください。

Q : ランダム材は特性値が大きくばらつくと思うが,(クラッシュボックス軸圧潰の)シミュレーションではそれを考慮しているのか?
また,設計時にはデメリットとして考慮すべきかどうか?

A : ランダム材は繊維配向がランダムに積層されているため,部分的に配向が偏る場合があります。そのような場所では強度や弾性率が平均に対して異なります。ただし,測定対象物の大きさが大きくなると局所的な偏りの影響は相対的に小さくなります(寸法効果)。局所的にみると配向が偏っているが,別の場所を見ると別の方向に配向しています。このため広い視野でみると全体的なバランスがとれてくるため測定対象物の全体的な挙動はばらつかないことが確認されています。軸圧壊試験では数回試験を実施しましたが,エネルギー吸収量などにばらつきは見られませんでした。
但し,例えば接合部など局所的な破壊が発生する場合,安全率を大きめにとった設計などが必要と考えられます。局所的な評価をする場合は局所的にどのような応力状態を測定するべきか考える必要があります。

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