ライフサイエンス
高速度ビデオカメラを用いた水蒸気バブルの振動解析
はじめに
少量の流体を扱うデバイスはマイクロ流体デバイスと呼ばれ、様々な分野で広く活用されています。扱う流体の量を減らすことで、例えば生化学分析などにおいては少ない検体量で迅速に分析を行うことが可能となります。しかし、マイクロメートルスケールでは流体の粘性の効果が顕著になるため、狭い流路の中で流体を強く攪拌することは未だに容易ではありません。 近年の報告で、光熱加熱とマイクロバブルを用いたマイクロ流体の操作事例が報告されています。金ナノ粒子薄膜やFeSi2薄膜などにレーザーを集光すると、光を吸収して熱に変換します。そのため、薄膜上のレーザースポットを局所熱源として用いることができます。この熱を利用して水中にマイクロバブルを生成し、さらにこのバブルに温度勾配を与えます。すると、バブルの表面に表面張力勾配が生じ、周囲にマランゴニ対流が生成されます。水を脱気していない場合には、生成されるバブルは主に空気でできており、バブル近傍のみに対流が生じます。一方、水を脱気すると、主に水蒸気でできたバブルが生成されます。そして、水蒸気バブルの周りには、空気バブルの周りに生成される対流よりも桁違いに速い対流が誘起されることがわかりました。その流速は、バブルのごく近傍で1 m/sオーダーに達します。この現象は新しいマイクロ流体の駆動・攪拌技術として有用であると期待されます。しかし、その対流の発生メカニズムは未だ完全には解明されていません。 水蒸気バブル周辺の対流の発生要因の一つはマランゴニ力です。これは温度勾配に起因する表面張力勾配によって生じる剪断力です。しかし、マランゴニ力だけで対流が発生すると仮定すると、バブルの直径方向に60 K以上の温度差が必要です。水蒸気バブルの直径は10 µm程度であり、そこに大きな温度差を保つことは困難です。そこで、もう一つの対流発生要因として考えられるのがバブルの振動です。バブルからの散乱光を捉えることで、バブルがサブMHzオーダーで振動していることがわかっています。バブルの振動による対流の強さを評価するには、バブルの大きさ、形の時間変化を知る必要があります。しかし、水蒸気バブルの振動周波数は一般的なカメラの撮影速度に比べて速く、その動きを捉えることは困難でした。本稿では、最高10 Mfpsでの撮影が可能なHPV-X2を用いて、この水蒸気バブルの振動の観察に成功した事例をご報告します。
2023.06.19