ライフサイエンス
リキッドバイオプシーを対象とした「がんゲノム医療」への試み
はじめに
がん患者の遺伝子異常を一度で複数解析することにより、がん関連遺伝子の変異に対する最適な治療を選択する「がんゲノム医療」の推進に向けた国の体制作りがスタートしました。全国で 11 カ所の「がんゲノム医療中核拠点病院」が選抜され、“連携病院”と協力しながら適切ながんゲノム医療が提供されるように、情報の共有や専門の人材育成が推進される計画です。一方で、ゲノム異常を検査する費用は高額であるにも関わらず、その検査結果が最適な治療薬の選択につながる割合はまだまだ低いといった問題点も残っています。このような現状から、低コストで検査を継続できる方法、さらに、がんの治療可能性を上げる上で最も大切な“超早期診断”のための実現可能な検査方法の開発をこれからも進めることが大学等の研究機関に求められています。その中心的な課題の一つが血液などの体液を利用できる低侵襲がん診断「リキッドバイオプシー」です。「血中遊離 DNA(cell free DNA;cfDNA)」は、細胞外に放出され、体液中に浮遊する DNA 断片です (Crowley E et al,2013)。がん患者では健常人と比較して cfDNA がより高濃度に存在することが知られており、その一部が癌細胞に由来します。この DNA 断片に刻まれる遺伝子異常は、特異性の高い腫瘍マーカーとなることが期待されます。遺伝子異常の捕獲は、少量の体液(血液・尿・消化液など)をもって体内に存在するがん部分の遺伝子異常へとアクセスできる可能性があります。よって“侵襲性の低さ”や“全身に存在するがんの情報を早期に取得できる可能性”という二つの面で期待が寄せられております。すなわち、cfDNA の濃度・遺伝子異常の経時的な追跡により、新規の「がん特異的マーカー」として薬剤耐性や治療効果の判定材料となることが期待されます。現在、そのようながんゲノム医療の解析の担い手として広く期待・活用されているツールが、“次世代シーケンサー(NGS)”です。しかし、「簡便性」「即時性」「感度」「コスト」の面で、NGS が広く臨床の場で活用できるようになるまでには、課題も残されています。
2021.12.21