イメージング質量顕微鏡iMScope TRIOを用いた馬毛髪直接分析による薬物検出法の開発

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はじめに

法医学の分野における薬物検査試料として、現在、尿とともに毛髪が注目されている。その理由として、尿では一般的に代謝された薬物を検出しなければならない上、もし排泄時に試料採取ができなかった場合、薬物の検出は極めて困難になる。一方、毛髪では薬物は代謝されず毛髪内部に吸収され長期間とどまる。すなわち、尿では最終摂取後数日で代謝・排出を経て失われる可能性があるのに対し、毛髪では切断しない限り摂取履歴が長期間残るという特徴を持つ。 現在、この新しい検査試料に対する測定手法として実用化されている方法は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)もしくは液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)が一般的である。採取された毛髪は、洗浄および乾燥後、5mm~1cm程度に裁断され、それぞれの裁断毛髪から薬物を抽出し精製工程を経て測定される。人の頭髪の場合、平均1cm/月の伸長速度であることから、検出された毛髪断片の位置を同定できれば、「いつ」、「どのような薬物を」、「どれだけ」摂取したかが判別可能である。なお、上記の試料前処理法をはじめとする法医学分野における毛髪鑑定については、大野および水野らによる文献が参考になる。 このような毛髪分析は、現在、人のみならず競走馬のドーピング検査に対しても大きな期待を集めている。現在までに報告されている馬毛分析の検査試料は、馬のたてがみ(以下、馬毛)である。しかし馬毛は一般的に長く、試料表面の汚染等を除去するため十分な洗浄乾燥が必要とされる。また、裁断後の試料数も多量になることから、前処理が非常に煩雑になることは容易に想像される。このような背景から、毛髪分析の新しい手法としてGC-MS、LC-MSではなく質量分析イメージング(MSI)を用いた方法が報告されている。MSIでは前処理した試料を直接分析可能である。近年、人の頭髪に対して薬物摂取履歴検出のためのMSIを行った先駆的な報告が鎌田らにより行われている。MSIで履歴を検出する場合、長手方向にキューティクルを除去し、毛髄質を露出させる必要がある。この工程が困難であることから、文献6では専用装置を製作しているが、その専用装置を用いたとしても1~2cm程度しかキューティクルを除去することはできない。人毛髪と異なり馬毛は非常に長いため、この工程はさらに煩雑であることから、これまで報告された例はない。本稿では、手作業でのキューティクル除去ではあるが、4cmの馬毛を用いてMSIを行いステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンリン酸を検出した例を紹介したい。

2019.09.20

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