ライフサイエンス
ゲノム編集における RGEN-RFLP 法を用いた簡便で正確なジェノタイピング法
はじめに
人工DNA切断酵素を基盤としたゲノム編集技術の発展は,現代生命科学においてパラダイムシフトをもたらした技術革新の一つであり,その進歩の大きな原動力となりつつあります。人工DNA切断酵素の中でも,その簡便さから世界中の研究者が利用しているのがCRISPR(Clustered Regularly InterspacedShort Palindromic Repeats)-Cas9システムです。このシステムはRNA誘導型ヌクレアーゼ(RNA Guided Endonuclease;RGEN)であるCas9と標的配列特異的なguide RNA(gRNA)によって構成されます。gRNAはCRISPR RNA(crRNA)とtrans-activating crRNA(tracrRNA)を組み合わせたRNAであり,crRNAの20塩基(プロトスペーサー配列)がゲノム上の標的配列の特異性を決定します。その際,このゲノム上の標的配列のすぐ 3’側下流にProtospacer Adjacent Motif(PAM)と呼ばれる,NGG(Nは任意の塩基;Streptococcus pyogenesCas9 の場合)配列が必要です。gRNAとCas9タンパク質の複合体はPAMの3塩基上流で DNA二本鎖切断(DSB)を引き起こしますが,その際に生じる不正確なDNA修復機構(error-prone 修復)により,標的部位に挿入や欠失(insertions/deletions;indels)が生じます2),3)。その結果,標的部位に変異が導入され,コーディング領域にフレームシフト変異が生じた場合,その遺伝子は破壊(ノックアウト)されます。 CRISPR-Cas9システムの効率化は日々改良が進められていますが,培養細胞や受精卵への変異導入の際,トランスフェクションした培養皿全体の細胞や個体を構成するすべての体細胞に変異が導入されるわけではありません。したがって,gRNA 標的配列の選択,導入条件の最適化,実験成果の評価には簡便な変異の検出と正確な導入率の算出(ジェノタイピング)が必要不可決です。
2016.07.11