メダカへの変異導入と変異系統作製

MultiNA の活用

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はじめに

近年,TAL effector nuclease(Transcription Activator-LikeEffector Nuclease),CRISPR/Cas System(Clustered RegularlyInterspaced Short Palindromic Repeats/CRISPR associatedprotein)などと呼ばれるゲノム上の任意の配列にDSB(Double-Strand Break:二本鎖切断)を導入できるゲノム編集のための技術が開発されました。TAL effector nucleaseはヌクレアーゼドメインを持つキメラタンパク質の人工ヌクレアーゼ,CRISPR/Cas SystemはRNAを介したRGEN(RNA-Guided EndoNuclease:RNA誘導体型ヌクレアーゼ)とそれぞれ原理が異なっています。その後,これらを基にした様々なツールが日進月歩の勢いで開発されています。 この技術がもたらした最大の貢献の一つは,これまでES細胞等が存在するマウスなど極限られたモデル生物でしか行い得なかった選択的なジーンターゲッティング(遺伝子破壊)が,多くの生物でも容易に行えるようになったということです。そしてこれまでに,線虫,ショウジヨウバエ,カイコ,コオロギ,ホヤ,カエル,イモリなどで遺伝子破壊が報告されています。4)DSBによるジーンターゲッティングの機構を図1に示します。DSBが起ると,細胞はその修復を行います。その修復には大きく分けて2つの経路があります。その1つは,正常な姉妹染色体を鋳型として修復する HomologyDirected Repairです。この場合,染色体の傷が元通りに修復されるため変異は導入されません。一方,もう一つの NonHomologous End Joiningでは,染色体切断という急場をしのぐため“とりあえず”染色体をつなぎます。この時に塩基の欠失や付加(insertion/deletion, in/del)という変異が導入され,その結果として遺伝子が破壊されます。 ジーンターゲッティングそのものは可能となりましたが,実際に変異系統を樹立するには,作製したTAL effectornucleaseあるいはCRISPR/Casの活性評価,目的の変異が導入された個体の選別,同一の変異を持つ個体の選別,両アリルに同一変異を持つ個体の選別など,費用や労力を要するいくつかの行程が存在します。 我々はこの評価や選別には後述するHMA(HeteroduplexMobility Assay:ヘテロ二本鎖移動度分析)という手法を用いています。HMAは従来,ポリアクリルアミドゲル電気泳動で行います。しかしながらゲルの作製や多検体処理において多くの手間と時間を要してしまうのが難点です。 マイクロチップ電気泳動装置MultiNAは自動で電気泳動を実施する分析装置です。必要な試薬とサンプルをセットするだけで分析を実施することができます。ここでは,変異個体の評価や選別にMultiNAを活用した効率的な変異系統の作製についてご紹介します。

2017.02.25