制限酵素切断パターンの類縁性検索による微生物推定法

MultiNA の活用

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はじめに

現在では,特定の遺伝子領域の塩基配列を決定し,既知遺伝子との類縁性から対象遺伝子の性質や機能を推定する類縁性検索方法が遺伝子解析の基本的技術として確立しています。塩基配列決定の高速化・簡便化により塩基配列情報の蓄積が益々進み,これを基本としたメタゲノム解析等の新たな解析技術が確立してくる一方で,蓄積した配列情報を利用することで,事前に塩基配列を決定しなくとも類縁性検索が可能になる環境が生まれています。 今回ご紹介する制限酵素断片長による多型解析は,塩基配列決定法が普及する以前,遺伝子同士の類縁関係を簡便に比較できる方法として頻繁に利用されてきました。しかし塩基配列決定の高速化や低価格化が急速に進んだ今となっては予備的に使用されるに過ぎなくなってしまいました。 この方法の有用な点を文字情報の解析に例えて説明します。塩基配列に基づいた類縁性検索では読み取った膨大な文字情報の中から一字ずつ文字が一致するかどうかを検索するのに対して,制限酵素断片長による検索では文章を句読点で区切った文節数と文字数の数値情報に変換して類似性を調べます。文字情報の塩基配列データは解析対象となる配列が長くなるに従い,データ取得・類縁性検索等のデータ処理に時間・労力がかかってくるのに対し,切断片情報は数値データのため,配列の長さが長くなっても解析に要する時間・労力は増えません。長い配列を対象とする程,解析精度が上昇するため塩基配列決定と比べて優位性が増す場合が生じてきます。著者らはこの点に着目し,実測して得た制限酵素断片長パターンと塩基配列データベースから作成した対照用のデータベースを比較し遺伝子の類縁性を検索するシステム “TKS_Ver3.1” を開発しました(図1)1,2)。本法によりこれまでは塩基配列の決定によってしかできなかった遺伝子の類縁性検索が,制限酵素断片長パターンから簡便にできるようになりました3)。しかし,断片長パターンのデータを得るためのアガロースゲル電気泳動やポリアクリルアミドゲル電気泳動は,データの取得に時間がかかり操作が煩雑なため,塩基配列決定よりも逆に煩わしくなるという欠点もありました 3,4)。これまでに数社から販売されてきた使い捨て型のマイクロチップ型電気泳動装置をアガロースゲルやポリアクリルアミドゲル電気泳動の代わりに使用しますと,分析時間は短くなりますが操作は相変わらず煩雑で,しかもランニングコストが高額なため,本目的のための普及機器には成り難いという難点がありました 5)。一方でマイクロチップ電気泳動装置 MCE-202 MultiNA はマイクロチップを再利用でき,全自動で試料をアプライできるなどその操作性などから,本方法の普及機器として理想的な機器です。

2016.07.11