ライフサイエンス
AFLP 法を用いた太平洋クロマグロ雄に特徴的な DNA 断片のスクリーニング
MultiNA の活用
はじめに
太平洋クロマグロThunnus orientalisの完全養殖技術は天然資源保護の観点から重要です。大西洋クロマグロは2010年3月ワシントン条約締約国会議にて全面取引禁止提案がなされたほど,その天然資源量は危惧されています。今後太平洋クロマグロについても漁獲規制が行われる可能性があります。近畿大学水産研究所では1970年よりクロマグロ養殖研究を開始し,完全養殖すなわち生簀(いけす)内で養殖親魚から受精卵を得て再び成魚,親魚にまで飼育する技術を確立しました。2009年の近畿大学水産研究所クロマグロ稚魚生産尾数はおよそ4万尾でした。年間40万尾以上とも推計される養殖用稚魚の国内需要を満たせてはいないものの,天然資源への負荷削減には一定の役割を担っており,将来国内クロマグロ養殖に必要な全稚魚供給も期待されています。 クロマグロ稚魚増産には様々な取り組みが必要です。その一つは安定的に良質な受精卵を得る技術開発です。繁殖期には生簀内の雄のほぼ全てが性成熟している一方で,雌は産卵期でも個体毎に卵巣成熟度が大きく異なり,性成熟する個体の割合が低い事が知られています。従って,生簀内の親魚群は雌の割合を雄よりも高めておく事が重要です。しかし困った事に,マグロ類では雌雄に顕著な形態学的な特徴がありません。さらに,優に体重100 ㎏以上に成長する親魚は簡単に取り扱うことができません。捕獲して開腹手術による生殖腺観察で雌雄判別は可能ですが,この方法ではマグロは死んでしまうので無理なのが現状です。クロマグロ雌雄に特徴的なDNAを同定することが出来れば,少量の血液,鰭の一部等を採取して雌雄判別が可能となります。扱いの比較的容易な幼魚期に雌雄の比率を最適化した親魚編成を行えると期待されます。
2016.07.11