インピュリティディレイ法を用いた 有機フッ素系化合物(PFCs)のLC/MS分析
はじめに
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)では2009年5月に第4回締約国会議(COP4)が開催され,新たに9種の化学物質が残留性有機汚染物質(POPs)としてリストアップされました。ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS),その塩類,およびペルフルオロオクタンスルホン酸フルオリド(PFOSF)は付属書Bに追加となりました。日本も含め現時点で代替の見通しの立たない用途があることから,エッセンシャルユースとして写真感光材料,半導体用途,フォトマスク,医療機器,金属メッキ,泡消火剤,カラープリンター用電気電子部品,医療用CCDカラーフィルターなどの目的・用途を除外する規定があります。今後は代替技術の開発を進めながら,将来的な廃絶に取り組んでいくこととなりました。また,日本ではPFOSとペルフルオロオクタン酸(PFOA)は化審法の第二種監視化学物質に指定されており,製造者は前年度の製造量,販売量を経済産業省に報告する義務があります。これらの化合物の定性定量的分析はますます必要とされます。 PFOAとPFOSとその類縁物質はLC/MSで高感度検出が可能です。ここではPFOA と炭素鎖の長さと分岐が異なるPFOS類縁物質6成分のLC/MSによる一斉分析をご紹介します。Fig. 1にPFOAおよびPFOS類縁物質の塩類6成分の構造式を示します。これらの化合物はエレクトロスプレーイオン化法で,脱プロトン分子 [M-H]- が検出されます。 PFOAは,分析条件によっては,溶離液中のPFOA,オンライン脱気装置や流路由来のPFOAが分析カラムで濃縮された後,分析試料として注入したPFOAと同じ時間に溶出し検出されることで分析上問題となることがあります。PFOAの汚染要因が複数あること,環境大気中からの溶離液汚染が常時起こる可能性があることより,これらの原因を完全に取り除くことが非常に困難です。今回はミキサーと試料注入装置の間にFig. 2のようにディレイカラムを取り付けることにより,試料中の目的成分であるPFOAピークと溶離液やHPLCシステム由来のPFOAピークを分離し,PFOAの高感度検出を可能にしました。このように不純物成分を分析目的成分より遅延して溶出させる方法をインピュリティディレイ法と呼ぶこととしました。
2010.10.26