ライフサイエンス
組織ダイレクト解析:トリプシン消化物のMALDIイメージング
はじめに
MALDI法を用いた質量分析によるMALDIイメージング法は生体分子の抽出・標識といった操作を必要とせずに,ペプチド・タンパク質などの生体分子の分布を表示できます。これまでに様々な組織切片における生体分子のMSイメージが報告されており,最近では疾患特異的バイオマーカ候補タンパク質の分布を示した例も報告されています。しかしながら組織切片上で直接質量分析を行って検出したタンパク質を,質量値の情報だけで同定することは非常に困難です。一般に質量分析を組み合わせたタンパク質同定法としては,目的タンパク質の「トリプシン消化ペプチドを利用したPMF(ペプチドマスフィンガープリンティング)法とMS/MSイオンサーチ法が知られています。組織切片上では複数のタンパク質が混在化しているために,PMF法によるタンパク質同定はできません。そのため組織切片上で直接タンパク質同定を行うためには,酵素反応後のトリプシン消化ペプチドに対して,MS/MSイオンサーチを行う必要があります。このときスポッター装置を用いて酵素溶液を組織切片上に塗布することで,組織上の微小領域に限定した分析が可能となります。またスプレー法による塗布に比べると,高価な酵素溶液の使用が少量で済みます。ここではラット肝臓組織切片を試料として,微小領域におけるタンパク質同定の例とラット脳組織切片に対するトリプシン消化物のMALDIイメージングの例を示します。最初に肝臓組織切片の微小領域に対して,ケミカルプリンタ(CHIP-1000)によるトリプシン溶液(40μg/mL,5 mM NH4HCO3)の分注を行いました。トリプシン溶液を500μm間隔で1.0 nLずつ組織切片に対して,繰り返し分注しました(10 nL/スポット)。外部インキュベータ内で37 ℃,2時間酵素反応を行ってから,酵素溶液を分注した位置に対して,マトリックス溶液,5 mg/mL DHB(50 %メタノール,0.1 % トリフルオロ酢酸)を分注しました。Fig.1にマトリックスを分注した肝臓組織切片画像を示します。次にデシケーター内で乾燥させた後,AXIMA-QITを用いて質量分析を行いました。得られたマススペクトルのうちシグナル強度の強かったm/z 1572.78とm/z 1817.01の分子イオンに対して,MS/MS分析を行いました。測定の結果得られたMS/MSスペクトルとそのデータベース検索の結果をFig.2に示します。
2009.04.04