工業材料・マテリアル
原子吸光法による玩具の測定
はじめに
昨今,玩具や金属製アクセサリーの安全性について,関心が高まっています。例えば,鉛(Pb)は,神経系や血液系などに対して毒性を有しますが,この影響は成人よりも特に乳幼児において顕著であることが知られています。仮に,乳幼児がこのような有害成分を含有する玩具類を口に入れたり,飲み込んだりすれば,健康被害に繋がる恐れがあります。これらへの対応やISOとの整合性を踏まえ,厚生労働省は平成20年3月31日「食品衛生法施行規則第78条」および「食品,添加物等の規格基準」の一部改正を行いました。1948年1月1日より施行されている「食品衛生法」は,飲食によって生じる危害の発生を防止するための厚労省所管の法律です。その中では食品と添加物,器具容器の規格・表示・検査などの原則が定められており,現在,下記に示した第一章から第十一章および附則で成り立っています。 第一章 総則(第1~4条) 第二章 食品及び添加物(第5~14条) 第三章 器具及び容器包装(第15~18条) 第四章 表示及び広告(第19~20条) 第五章 食品添加物公定書(第21条) 第六章 監視指導指針及び計画(第22~24条) 第七章 検査(第25~30条) 第八章 登録検査機関(第31~47条) 第九章 営業(第48~56条) 第十章 雑則(第57~70条) 第十一章 罰則(第71~79条) 今回の改正は器具および容器包装に関連するものですが,「食品衛生法施行規則第78条」の中では,玩具の定義がなされています。また,「食品,添加物等の規格基準」は(厚生省告示第370号)と呼ばれ,規格値や前処理法などが示されていることから,食品や添加物の分析の際に目にする機会が多いものです。この告示第370号の「第4おもちゃの部」の主な改正ですが,塩ビ樹脂塗料を含む全ての塗料が規格設定の対象となり,製品の塗装部分について試験を行うこととなりました。更に,溶出試験はISO規格に基づき,重金属はPbに置き換えられ,玩具の塗装および金属1 kg当たりの溶出量の上限は,Pb 90 mg/kg,Cd 75 mg/kg,As 25 mg/kgに設定されました。金属製玩具アクセサリ-(乳幼児が飲み込む可能性のある大きさのものに限る)の規格も新設され,Pb90 mg/kgが溶出試験の上限として設定されました。塗装と金属製玩具アクセサリーの有害金属の分析では原子吸光光度法とICP発光分析法が採用されていますが,ICP発光分析法は高感度で同時多元素分析が行えるため,測定元素が多い場合に有効です。一方,高感度でローコストなことから食品や排水など多くの公定法に採用されている原子吸光光度法は,測定元素が少ない場合に効率的な分析法と言えます。今回,ファーネス原子吸光法にて玩具塗装からのPbの溶出試験を行いましたのでご紹介します。試料調製に関して「食品,添加物等の規格基準」の中に,塗装の溶出試験は①塗装を削り取り0.5 mmメッシュ以下に粉砕②試料約0.1 gを精密に量る③0.07 mol/L塩酸5 mLを加え遮光下37 ℃で振とう1時間④静置1時間(金属製玩具アクセサリーでは,塗装と同じ溶出液・溶出温度で静置2時間)の記載があります。 今回,処理した液のろ過や濾紙の洗い込みなどの操作および測定する際の希釈には0.07 mol/L塩酸を用いました。
2008.08.03