工業材料・マテリアル
原子吸光法によるニッケルの測定
はじめに
Niは,珪ニッケル鉱や紅砒ニッケル鉱,硫鉄ニッケル鉱などの鉱石を焙焼して酸化物としたものを炭素で還元することで得られます。Niは展性,延性に富む銀白色の金属ですが,常温で極めて安定なことからメッキとして広く用いられます。Niの合金には,ステンレス鋼(Ni8%,Cr18%,主成分はFe),硬貨に使用される白銅(Ni25%,Cu75%),工芸品や楽器,食器等に用いられる洋銀(Ni10~20%,Cu40~70%,Zn20~30%),発熱体としての用途のニクロム(Ni60~80%,Cr10~20%,Mn1~2%)などがあります。また,Ni-Zn電池やNi-Cd電池の電極材料,有機合成の触媒など,幅広い分野で利用されています。 Niは,人体中に約143μg/kg存在しており,骨に最も多く含まれています。腸からの吸収がほとんどないため,経口毒性は低いとされていますが,硫化ニッケルや酸化ニッケル等は,発ガン性を持ち,アレルギーの原因ともなります。アクセサリーに用いられるニッケル合金は,皮膚と接触してイオンとなり,生体物質と結合すると,ハプテン(弱い抗原)として働いて,強い抗原性を示します。これにより体内で免疫反応が起こり,皮膚炎などを生じさせる原因となります。 Niは,高融点・高沸点の金属であり,原子化しにくく,ファーネス測定においても感度を得ることが難しい元素の一つですが,ここでは,炉内濃縮を用いた高感度分析をご紹介します。
2005.10.10