環境
原子吸光法による亜鉛の測定
はじめに
亜鉛は,主に菱亜鉛鉱(ZnCO3)や閃亜鉛鉱,ウルツ鉱(ZnS)などの鉱石から得られます。亜鉛の精錬では,鉱石を焙焼し酸化亜鉛とした後,高温で炭素により還元する乾式法及び,硫酸に溶解後,電解還元する湿式法が行われています。亜鉛は,主に耐食性メッキとして用いられます。鉄よりイオン化傾向が大きい亜鉛のメッキを鉄板に施したトタンは,錫をメッキしたブリキと並んで良く知られています。更に,合金材料としての用途も幅広く,銅との合金である真鍮(黄銅)などに用いられています。 亜鉛化合物は,その酸化数が通常,+2価に限られる点と酸化物,水酸化物は両性化合物であるため,酸にもアルカリにも可溶である点が特徴的です。亜鉛化合物の用途として,例えば,酸化亜鉛(ZnO)は,塗料や顔料,インキ,更には,その殺菌作用から亜鉛軟膏等の医薬品に使用されています。硫化亜鉛(ZnS)は,銅と併せてブラウン管の蛍光剤に使用されており,電子線の照射によって黄緑色の蛍光を発します。 亜鉛は,生体内で免疫作用,アルコール代謝,生体膜の安定化など様々な機能に関与している必須元素です。亜鉛を含んだ酵素や蛋白質が多く発見されており,その役割として蛋白質の構造を保つ,2)酵素反応の際に基質を酵素に固定化させる,3)触媒作用を持つ,等が知られています。また,生体内において鉄や銅が酸化還元反応に関与しているのとは異なり,亜鉛は加水分解反応に関連することが多いとされています。人体の亜鉛の含量は,遷移金属としては鉄に次いで多く,体重70kgの人で2g程度と言われています。体内の亜鉛の50%が血液中に,25~30%が皮膚や骨に,その他は膵臓や眼,精子などに存在しています。亜鉛の1日の必要摂取量は約15mgですが,亜鉛欠乏は味覚障害や皮膚疾患の原因となります。亜鉛は不足しがちな元素であるため,これを補うための亜鉛を多く含んだサプリメントや自然食品等を店頭で見る機会も最近,増えています。一方,亜鉛の過剰摂取による障害は,通常,起りにくいようですが,缶詰から溶出した亜鉛による腹痛,吐き気などの中毒例や亜鉛を加熱した際の酸化亜鉛蒸気の吸引によって発熱,ふるえを催す亜鉛ヒューム熱が知られています。 亜鉛の分析は,上水,排水等の環境分野はもとより,メッキ,金属などの工業分野,更には食品や医薬品業界等で広く行われています。 今回,フレーム法では銅中亜鉛の測定を,ファーネス法では河川水中亜鉛の測定をご紹介します。
2004.04.03