ファーネス法における検出限界,定量限界の計算方法

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はじめに

測定の信頼性の確保を目的とする精度管理への関心が,昨今,ますます高まっています。 分析結果の信頼性を支えている土台の一端には,試料前処理などを含めた分析ノウハウの蓄積がありますが,もう一端を担うものは,性能がしっかりと維持された分析機器であると言えるでしょう。性能維持という面において,装置の感度が一定に保たれていることが重要であることは言うまでもありません。従って,精度管理の一環として装置の感度チェックが求められる場面は,今後,更に増えてくるでしょう。 今回,ファーネス法における感度の求め方について紹介します。「感度」といった場合,それが検出限界,または定量限界のどちらの意味で用いられるかによって,その計算方法と得られる数値は異なってきます。 検出限界には,「試料に含まれる分析対象成分の検出可能な最低量または最低濃度」との定義が「分析および分析値の信頼性」(日本分析化学会編)の中にあり,「定量することができなくてもよい」とされています。検出限界といった場合,一般的にはS/Nが2あるいは3となる濃度を意味します。ファーネス法において検出限界を求める際には,まず,ブランク測定を5~10回程度行います。この時に得られた吸光度の標準偏差(SD)がNとなります。S/N=2を検出限界とする場合,Nの2倍の吸光度が得られる濃度を検量線から計算します。S/N=3を用いる場合には,Nの3倍の吸光度を示す濃度が検出限界となります。 一方,定量限界は,「適切な真度と精度をもって定量できる分析対象成分の最低量または最低濃度」と定義され,以下のような求め方があります。  1.検出限界の5~10倍(S/N=10~30)  2.相対標準偏差(RSD)が10%となる濃度 一般的に濃度が高いほどRSDは小さくなる傾向があり,濃度とその濃度におけるRSDの関係をプロットし,それよりRSDが10%となる濃度を求めます。  3.1%吸収濃度 原子吸光法では,定量限界として1%吸収濃度が広く用いられています。1%吸収とは,透過率が99%であることと同義であり,この時,吸光度は約0.0044となります。 [Abs.=-log (I/I0)=-log (99/100)=0.00436...] 従って,1%吸収濃度とは,その吸光度が0.0044となる濃度と言い換えることができます。 ファーネス法では,測定元素が同じであっても,その感度は加熱条件やグラファイトチューブの種類,試料注入量などのパラメータに依存するため,感度チェックを行う際には,これらを同一条件にしておくことが必要です。 S/Nから求められる定量限界と1%吸収濃度の関係では,例えば,ブランク繰返し測定のSDが1%吸収における吸光度0.0044の1/10つまり0.00044の時,S/N=10より計算された定量限界と1%吸収濃度は一致することになります。

2001.10.25