味の素 株式会社

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    低分子医薬品, バイオ医薬品

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    AccuSpot

味の素株式会社 山田様に,開発時よりご意見・ご要望を頂き製品化にご協力いただきましたProminence nanoについてお話を伺いました。山田様は現在,ミクロLC,ナノLCと各種質量分析装置を組合わせて,ペプチドサンプルなどの定性・定量分析を幅広く手がけていらっしゃいます。

Customer

山田 尚之 様

ライフサイエンス研究所
生体高分子構造研究グループ
主任研究員
AJINOMOTO CERTIFIED PROFESSIONAL
農学博士
山田 尚之 様

*お客様のご所属・役職は掲載当時のものです。

味の素 株式会社
URL http://www.ajinomoto.co.jp/

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インタビュー

まず初めに,LC/MSシステムをお使いの目的とナノLC(Prominence nano)とミクロLCの使い分けについてお聞かせください。

インタビュー写真1

プロテオームの解析と,ペプチドームといいますかペプチドの分析に使っています。島津さんのLC装置2台のうち一つはナノスケール,もう1台はミクロスケールで使っています。MS側の事情なのですが,低い流量で安定したエレクトロスプレーの状態になる装置にはナノLCを,ミクロぐらいのスケールで流したほうがいい装置にはミクロLCをという使い分けです。ナノLCを接続したLC/MSシステムは,定性と同位体標識試薬を使った相対的な定量に使用しています。ミクロのほうはもっと流量とスプレーが安定した状態で測りたい定量分析に使います。

Prominence nanoをご購入いただいた選定理由と購入前に期待されていたことをお聞かせいただけますか。

発売前からおつきあいさせていただき,Prominence nanoは私たちのニーズに取り組んでいただいた結果の完成版だということが購入の理由です。まずリクエストさせていただいた点は,できるだけシステムへの非特異的な吸着が起こらないようにということで,これはキャリーオーバーとは違います。バルブとかオートサンプラのところで吸着をできるだけ少なく,配管をできるだけ短くしていただくように。また,配管などを細くしていくと,詰まってしまうトラブルが発生しやすくなりますが,詰まらなくて安定して流量が出るようにお願いしました。今はほとんど詰まらないので,安心して連続測定ができます。

サンプルの取り扱いとか移動相の取り扱いをとても丁寧にやっていただいているのではないかと思います。常に送液していますか。

インタビュー写真2

ずっと送液しています。ずっと安定していて吸着もしないのできちんと感度が出るのだと思っています。キャリーオーバーを減らすには洗浄するなどいろいろな方法があるのですが,洗浄するということはくっついているということなので,微量サンプルを検出しようとする場合には解決策にはなりません。ですからできるだけ吸着をさせないというのが当初からの狙いで,それは多分うまくいっているのだと思います。それはナノの場合も,ミクロの場合もそうです。以前使っていた装置との比較もきちんとしています。感度も高いですしグラジエントの安定性も島津さんの装置のほうがいいですね。うちにある他の装置は最新版ではないので,流量のフィードバックとかはしていないですから。

ありがとうございます。主な分析条件はどのようなものですか。

流量はナノLCが200nL/分,ミクロのほうは2μL/分で使用しています。両方ともモノリスカラムです。トラップカラムも付けています。ナノLC(Prominence nano)のほうは2次元で使っていますので,前にはカスタムメイドのイオン交換カラムをつけています。

1次元と2次元の使い分けはどのようにされていますか。

非常に複雑なサンプルや同位体標識したサンプルの場合には2次元を使っています。微量で比較的シンプルなサンプルや一つのタンパク質を詳細に解析したいときは1次元で測定します。バッファー条件はカスタマイズしたもので,MSのネブライザーのチップは自分たちで作って使っています。LC側も耐久性がありほとんどメンテンナンスフリーで長時間稼動させられるので,省力化がなされています。メタルのスプレーヤーと組み合わせることで,ほとんどノンストップで測定できるというのは,精神的にもすごく楽です。途中で止まったりするとそこでかなりの労力がかかりますので。1次元でお使いのところは結構ありますが,2次元が必要なときにはオフラインでイオン交換クロマトなどでフラクションされて1次元LC/MSで測定する使い方のようです。そのほうが分離能がよいのかもしれないのですが,私たちのように2次元ナノLCでパフォーマンスを上げていくというときには,自動化されていることと安定して装置が稼働するということが重要だと思います。Prominence nanoでは本当に手がかからなくなりました。

そうですか。それはとてもうれしいですね。

MSのキャリブレーションを時々しなければいけないのですが,ずっとオーバーナイトで何日も測定しています。例えば年末年始はずっと連続測定をしていました。うちは生体サンプルを採取して分析するのですが,2次元で測定しているから余計にいいのかもしれないですね。1次元目で詰まるということはあまりなくて,カラムスケールが大きいですから。最初からナノでいくと,何かちょっとあると詰まってしまうのかもしれないのですが,2次元でやっているメリットはそういうところにあるのかもしれません。

2次元測定のほうがどちらかというと多いのですか。

インタビュー写真4

今はほとんど2次元です。時々メンテナンスをしてきちんと性能が出ているか見るときには1次元に切り替えてスタンダードのサンプルで確認します。

ナノLCのミクロLCに対する利点,また不利な点というのは,感じられますか。

インタビュー写真3

ナノLCの利点はやはりサンプルの量が少なくて感度が高いところだと思います。使用する溶媒量も少なくて済みますし。最近はアセトニトリルの問題もありましたよね。ですから消費量はできるだけ少ないほうがいいですね。不利な点は,一つはシステムの安定性だと思います。私達は1995年にキャピラリーLCを導入してからいろいろなLC装置を使っているのですが,やはり詰まったり,止まったり,流量が低下したりするというのが最大の課題でした。そこが今のProminence nanoで解決されたので,現在の島津さんの装置ではそれは不利な点ではなくなったと思います。カラムの種類に関する制限もカスタムメイドで対応することができます。今残っている不利な点は定量性で,それはLC側もそうですしMSスプレー側の定量性の問題もやはりあります。そこは苦しいところなので,ナノLCではせずに,ミクロLCで定量する,というスタンスでいます。定量の際は,安定した流量とスプレーがポイントで,ナノLCの能力を持ったHPLCでのミクロLCは,その要求に応えられるものと考えます。今後,プロテオーム解析の分野でも定量が益々重要になっていきますから。

Prominence nanoの注入再現性や保持時間再現性はいかがですか。

保持時間再現性はとてもいいですね。注入再現性は,これを正確に立証する実験をしていないのでちょっとわかりません。定性であるということと,定量にしても同位体標識を用いた相対定量なので注入ボリュームの再現性というのは,今はそれほど気にしていません。ただ,うちでは1μLのインジェクションでも毎回きちんと注入されていて,クロマトグラムのイオン強度などの再現性が見られているので問題ないと思います。今後,定量分析を進める上で,評価したいと思っています。

今後のことですが,向上させるべき機能・追加させるべき性能に関してはいかがですか。

たぶん今のHPLCの形態で,あとプラスする事というと,高速化ぐらいですね。

高速と高分離能ということですね。ポンプ自体は問題ないのですが配管がけっこう難しいですね。今,360μmでフューズドシリカキャピラリをスリーブを使って接続していますが,結局そこがネックになります。分離能を落とさないで高速にするということですが,どの程度の高速化をイメージされていますか。

インタビュー写真5

2次元ではどうしても時間がかかってしまうので早いほうがいいです。ただMS側のスキャンスピードにも関係してくると思います。あとは今まで60分の測定時間が,60分のままでもいいのですけれど,分離できなかった成分が分離できるようになるというのであれば,それはすごく期待します。

わかりました。素材なども含めて検討してみます。
LCsolutionと専用制御ソフトナノアシスト(Nano-Assist)に関するコメントはありませんか。

1次元と2次元を切り替えて使用する場合にはLCsolutionのほうが向いているのかなと思い,ナノアシストはほとんど使っていません。一点気になっているのは,LCsolutionで2次元を組むときに一つの時間をずらすとその後の時間もずらさなければいけないということです。あそこがちょっと使い勝手が悪いのではないかと思います。そこが自動になればきっと楽ですね。

そのへんを個人的には改善したいなということでつくったのが実はナノアシストなのです。元々LCユーザーではないライフサイエンス関連のお客様にはナノアシストが使いやすいと言っていただいています。本当はLCsolutionにそういった自動インクリメントというか,時間の関連づけみたいなものができるといちばんいいのですけれど,そのへんは今後のLCsolutionの課題ということで考えさせていただきたいと思います。
それと,MALDIプレート用スポッティング装置AccuSpotを使っておられますね。何か改善したほうがよい点などはありますか

インタビュー写真6

マトリックス溶液のボトルのボリュームが大きいですね。

マトリクス溶液についてですが,定期的にパージをしていただくとか,メンテナンスをしていただけるのだったら,たぶん細くすることはできると思います。ただ,自然乾燥して結晶化してしまうマトリックスというのは,どれだけ細くしようが太くしようが一緒だと思うのです。それは避けられないかもしれないのですが,背圧の問題とかもあると思っています。背圧がない程度に工夫できればいいと思いますので,検討させてください。
あとお聞きしたいのですが,AccuSpotと,いわゆるMALDI-MSとLC/MSとの使い分けというのはどのようにされているのですか。

インタビュー写真6

MALDI-TOFMSAXIMAでは比較的大きい分子を見ようと思っていて,それと1価できちんと見たいようなときはAccuSpotを使っています。例えば糖ペプチドみたいなものですと,ペプチドに糖鎖がついてきて,その糖鎖にバリエーションがあるので,LC/MSで見ると非常に複雑になってくるのです。もともとバリエーションがあり,しかも多価になってしまいます。同じ溶出時間に出てくるので,そこに複数のピークがかぶってきてしまいます。そういうものをMALDI-MSで見ると糖鎖だけの質量のピークだけしか出てこないので,そのようなサンプルにAccuSpotとAXIMAを使っています。

よくわかりました。
ところで島津のサービスサポートはいかがですか。

よくしていただいていると思います。ありがとうございます。

こちらこそありがとうございます。それからこれは一般論になるのかもしれないのですが,分析機器業界に対してはご意見とかご要望がございませんか。

一般論ですか。やはり今景気が悪くなってきていますし,MSもHPLCも海外メーカーさんの進出がすごいので,ここは盛り返していただいてぜひもっと日本から世界に。うちの会社もそうなのですが,後追いにならず,日本発でやっていただきたいなと思います。

はい,頑張ります。島津としても自分たちの弱い点というのはある程度わかっているつもりですので,頑張ってもっと盛り上げて行きたいと思います。

島津さんの製品だとコンパクトで省スペースですし,省溶媒というのも強みですね。

そうですね。あと私が個人的に考えているのは,日本人の悪いところであり,良いところだと思うのですが,製造に対してすごいシビアです。カタログスペックでもかなり安全を見たスペックしか記しません。

島津さんは特にそうだと思いますね。社内の審査が厳しいじゃないですか。だから技術があって物ができていても製品化に至るまでにかなり時間がかかる。でも装置への信頼を得る上で重要だと思いますよ。

そうですね。スピードとそういったストイックな面を天秤にかけながらなるべく迅速な製品化を心掛けていきたいと思います。今日は長い時間どうもありがとうございました。

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開発担当者コメント

液体クロマトグラフ質量分析計 LCMS-IT-TOF

ナノLC,特に2次元測定では分析時間が長く,システムを長時間安定に稼働させることがとても重要です。これを実現するため,スプリット方式の安定性とダイレクト方式の省溶媒化というそれぞれの長所を持ち合わせたユニークな送液システムと,大幅な形状・機構変更と微細な加工技術によってデッドボリュームをnLレベルまで低減し流路詰まりの問題が発生しにいナノバルブを開発しました。一方ではシステム全体の使いやすさも考慮し,初めてLCをお使いになるお客様にも簡単に2次元システムを操作して頂けるように,Nano-Assistソフトウエアをデザインしました。実際のご使用環境・条件やご要望というのは,開発中には気づかないこともあります。本製品に関しては味の素株式会社様からご要望・改善点を数多くご指摘頂き,それらを反映させた結果すばらしいシステムを完成させることができました。どうもありがとうございました。

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