宝石・貴金属

宝石の鑑別には、実体顕微鏡などの一般宝石鑑別機器だけでなく、様々な分析装置が用いられています。 フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)は、加熱処理や 樹脂含浸処理の有無、天然の宝石と人工の宝石の識別を、紫外可視近赤外分光光度計(UV-VIS)では、着色処理の有無などを確認します。またエネルギー分散型蛍光 X 線分析装置(EDXRF)は迅速かつ非破壊に元素分析ができ、宝石の天然/合成の判別や産地の推定を行うことができます。鉛ガラス含浸処理を行った宝石では、EDXにより鉛の検出が可能です。
また、岩石や鉱物は形成時の物理・化学情報を記録しており、その過程を元素の分布や構造として残しています。電子線マイクロアナライザEPMA™ (EPMA-1720HT)は宝石の元素分析と形態観察が可能です。宝石や岩石に含まれる元素の二次元的な分布を測定することができ、鉱物の結晶成長や変成における物理・化学過程を明らかにすることによって、鉱物の同定や宝飾品における宝石や貴石の産地を判別することもできます。

天然石/合成石の判別、天然石の産地判別

Fig.1 エメラルドの定性定量分析結果

Fig. 1 エメラルドの定性定量分析結果

エメラルドの価値は、透明度、色相、色の濃さの他、産地も価値を決める要因です。コロンビア産のエメラルドは鮮やかな緑色を示すことが特徴であるのに対し、ザンビア産のエメラルドは透明度の高いことが特徴と言われ、一般的にはコロンビア産の価値が高い傾向にあります。濃い緑色のザンビア産はコロンビア産と区別がつきにくいため、産地判別の手段として元素分析が使用されます。エメラルドの発色に関わる元素は主にクロム、鉄、バナジウムで、それぞれの元素の含有量によってエメラルドの色相が変わります。
EDX-8100 を用いて、エメラルドを分析しました。Fig.1に測定結果を示します。ザンビア産のエメラルドはコロンビア産のエメラルドと比較してクロム、鉄の含有量は高く、バナジウムの含有量は低い結果となりました。また、ザンビア産のエメラルドには、ナトリウム、マグネシウム、カリウムなどがコロンビア産のエメラルドよりも比較的多く含まれ、さらには微量のルビジウム、セシウムも含まれていました。このような違いはエメラルドの産地識別の指標になる可能性があります。

 

EDX-8100 による宝石の分析 -天然石/合成石の判別、天然石の産地判別-

EDX-8100 による宝石の分析

 

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ダイヤモンドや天然石の光学特性評価

多くの人々が魅了されるダイヤモンドには、鉱山から採れる天然ダイヤモンドと人工的に作られる合成ダイヤモンドの二種類が存在します。近年、ダイヤモンドの天然・合成起源の判別は、従来の宝石鑑定器具だけでは非常に難しくなり、新しい判別法が必要とされています。 紫外可視分光光度計 SolidSpecTM-3700DUV を用いて2種類のダイヤモンド(人工ダイヤモンドと天然ダイヤモンド)を測定した結果をFig.2に示します。ダイヤモンドAのスペクトルでは特徴的なピークが観測されなかったのに対し、ダイヤモンドBのスペクトルでは、415.2 nmにピークが観測されました。ダイヤモンドは、不純物(窒素原子)の混入度合によって光学特性が異なります。Fig.2の415.2 nmのピークは、3つの窒素原子の集団であるN3センタを示すピークであると考えられます。このN3センタはダイヤモンドの天然起源の根拠とされており、この結果よりダイヤモンドAは人工ダイヤモンド、ダイヤモンドBは天然ダイヤモンドであると推測できます。
また、フーリエ変換赤外分光光度計 IRSpirit-X シリーズに透過測定用付属品EZClip-13を装着し、水晶および紫水晶の透過スペクトルを測定しました。Fig.3に得られたスペクトルを示します。3400 cm-1付近において双方のピーク形状に違いが 見られます。水晶に不純物が混入することによって着色した紫水晶は、3435 cm-1にブロードで強い特徴的なピークをもつことが報告されています。このように水晶の不純物の有無が赤外スペクトル測定により観測することができました。

Fig.2 ダイヤモンドの反射スペクトル

Fig. 2 ダイヤモンドの反射スペクトル
青:ダイヤモンドA(合成)、赤:ダイヤモンドB(天然)

Fig.3 水晶の赤外スペクトル

Fig. 3 水晶の赤外スペクトル 黒:水晶、赤:紫水晶

ダイヤモンドや天然石の光学特性評価

ダイヤモンドや天然石の光学特性評価

 

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緑れん石の元素マッピング

緑れん石(Epidote)は緑色片岩(green-schist)、緑れん石角閃岩、 藍閃石片岩といった比較的低温で変成を受けた変成岩中に広く産出し、天然の緑れん石は、AlとFe3+が置換することで斜ゆうれん石(Clinozoisite, Ca2Al3Si3O12(OH))とピスタサイト(Pistacite, Ca2Al2Fe3+Si3O12(OH))の間の組成を取ります。ここでは、電子線マイクロアナライザEPMA™(EPMA-1720HT)を用い、市販されている緑れん石を含む石に存在する緑れん石と普通角閃石の元素マッピングを行いました。

この結果をFig.4に示します。ここでは、緑れん石と普通角閃石のFeとCrに注目しています。Fig.4(左)に示すように、緑れん石におけるFeは結晶の周縁部および境界部分で濃度が高く、CrはFeが少ない場所および境界部に濃度が高い部分が存在しています。また、Fig.4(右)に示すように、普通角閃石におけるFeはほぼ均一に分布しており、Crは比較的大きい結晶では不均一で中心部分の濃度が高くなっていることがわかりました。一方、一部の破片状になっている普通角閃石においては周縁部および境界部分でCrが濃度が高くなっていました。
緑れん石は変成岩の中に産出し、また変成温度が高いほどFe3+量が増加することが知られており、変成を受ける過程においては結晶の境界や周縁部で反応が進んだと考えられます。また普通角閃石は変成岩で生じる際に何かしらのCrの多い物質を取り込んだり、境界部にCrが多いものはCrの多い成分に接触したりしたことが推察されます。
岩石における元素マッピングにより、含有する鉱物の結 晶成長や変成における物理・化学過程を明らかにすることができます。また、元素マッピングと相解析を組み合わせることにより、鉱物の同定が可能です。このことから宝飾品における宝石や貴石の判定や産地判別を行うことも可能 です。

Fig.4 詳細元素マッピング

Fig. 4 詳細元素マッピング (左)緑れん石 (右)角閃石

緑れん石の元素マッピング

緑れん石の元素マッピング

 

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