UV TALK LETTER vol.3(2009) 分光器

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UV TALK LETTER vol.3(2009)
今回は,UV talk letter No.2の「分光光度計の構造」で解説した分光光度計の重要な要素の一つ,「分光器」を解説します。

「分光」とは,様々な波長を含む光を,波長に応じて分けることを意味します。分光器に白色光(様々な波長を含む光)が入ると,緑(540nm)や赤(650nm)などの単色光(単一の波長の光)が取り出されます。原理は,図2に示すように,太陽光をプリズムに入れて虹を作る実験で説明できます。虹の部分にスリットを設置することで,単色光を取り出します。スリットを固定してプリズムをその場で回すと,回転につれて虹の方向が変わり,取り出される色が変わります。

図1 分光光度計の構造
図1 分光光度計の構造

光を虹のように分けることを分散と呼び,その機能を持つ素子を分散素子と呼びます。代表的な分散素子としてプリズムの他に回折格子(グレーティング)があります。回折格子に白色光を当てると,図3のように反射光は虹色に分かれます。CDの読み取り面に白色光を当てると虹色が見える現象は,回折格子の分散と同じしくみです。回折格子の場合もプリズムと同様に,その場で回すことでスリットから取り出される色が変わります。

図2 プリズムの実験
図2 プリズムの実験

これら分散素子と,太陽光のような平行光を作るための入口スリットやミラー,単色光を取り出すための出口スリットやミラーなどが組み合わさって,分光器は構成されています。

図3 回折格子を用いた場合
図3 回折格子を用いた場合

1. 分散素子

代表的な分散素子はプリズムと回折格子です。表1のようにそれぞれ長所がありますが,分散についての特性が良いことから最近の分光光度計では回折格子がよく用いられます。プリズムは材質の屈折率が波長毎に異なることを利用して分散しますが,回折格子は光の回折方向が干渉のため波長毎に異なることを利用して分散します。
以下,分光光度計によく用いられる反射型ブレーズド回折格子を解説します。

  プリズム (反射型)回折格子
分散原理 波長により,材質の屈折率が異なることを利用   規則正しい格子構造を持つ反射面による回折を利用  
光利用効率 高い
(境界での反射や材質透過中の吸収が光損失となるが,一般に効率は高い。185~2500nmを1個のプリズムでカバー。)
低い
(同じ波長の光が高次光として何方向かに分散するため。ブレーズ波長付近では効率高い。)
 
分散の波長依存性 かなり異なる。紫外は大きいが,可視~近赤外は小さい。   ほぼ一定で大きい。
分散の温度依存性 大きい
(温度による屈折率変化が影響)
  小さい
(温度による変形が影響)
高次光 なし あり
(高次光カットフィルタが必要)
 
迷光 少ない 多い
(高次光の存在と,表面粗さによる散乱。ただし最近の回折格子の迷光はかなり少なくなっている。)
 
偏光 小さい 大きい  
表1 プリズムとグレーディングの比較
(○:分光光度計にとっての長所)

高校などで習う回折格子は図4のようにスリットが並んだものが多いですが,反射型ブレーズド回折格子は図5のように鋸歯状断面になっています。十分細いスリットを通過した光に回折が起こるように,十分小さい各鋸歯面で反射された光は回折を起こします。鋸歯の数は1mm当たり500~2000本程度です。

図4 スリットが並んだ回折格子
図4 スリットが並んだ回折格子
図5 反射型ブレーズド回折格子
図5 反射型ブレーズド回折格子

市販の回折格子の鋸歯面はマスター(原型)の形を写し取ったレプリカで,薄い合成樹脂のレプリカをガラス板に貼り付け,アルミニウムでコーティングしています。マスターの作成は,以前は工作機械でしたが,最近はレーザー光によるフォトリソグラフィーやイオンビームが用いられ,表面も滑らかです。表面が滑らかだと迷光(取り出したい波長以外の余計な波長の光)も少なくなります。

回折格子の基本式として,次の式があります。
mλ=d (sin i + sinθ) ・・・(1)
ここで,図6に示すように,dは溝(鋸歯)間隔,iは入射角,θは回折角(回折格子の面の法線に対して,入射光と回折光が同じ側であれば正,反対側であれば負),λは波長,mは次数です。d,m,iを決めると,波長λの光はθの方向に回折するということを意味しています。

図6 回折格子の基本式
図6 回折格子の基本式

式(1)からは高次光の存在が分かります。式(1)で,d,i,λを固定しても,mが異なればθが異なります。これは,ある波長λの光が図7のように複数の方向θに回折することを意味します。それぞれの方向の光の呼び名として,mの値により,+1次光,-1次光などと呼びます。ちなみに,m=0のときの光を0次光と呼びますが,入射角iと等しい回折角θの方向に,通常の鏡面反射のように白色光が反射されます。
このように回折格子は各次数の光にエネルギーが分散するため光利用効率が低下しますが,鋸歯状断面の回折格子の場合,図8に示すように細かい鋸歯面に対して鏡面反射の方向の回折光にエネルギーが集中します。この時の波長をブレーズ波長と呼びます。分光光度計の回折格子はブレーズ波長付近で使用されるのが普通で,広い波長範囲で効率を上げるために複数の回折格子を使い分けることもあります。

図7 高次光
図7 高次光
図8 ブレーズ波長
図8 ブレーズ波長

また高次光の現象について見方を変えると,式(1)でd,i,θを固定しても,mが異なればλが異なります。これは,図9のように,ある回折角θの方向に対して,複数の波長λの光が回折することを意味します。このため特定の波長(通常は±1次光)を取り出すために,分光器の出口スリットの後に高次光カットフィルタ(短波長遮断フィルタ)を使用します。

図9 高次光(2)
図9 高次光(2)

2. マウンティング(各素子の配置)

分光器中の基本的な素子は,(1)入口スリット,(2)コリメート鏡(スリットからの光を平行光にする),(3)回折格子(分散素子),(4)カメラ鏡(分散素子からの光を出口スリットに集光する),(5)出口スリット,です(図10)。図2や図3では,分散素子に入射する光は十分細いため,出口スリットだけで分光できましたが,実際の分光器では分散素子の全面に入射するため,カメラ鏡が必要となります。取り出される波長の光(図10では緑)で考えると,(1)入口スリットの像を(5)出口スリット位置で再結像させていることになります。取り出されない波長の光は,(4)カメラ鏡から外れるか,(5)出口スリットから外れた位置で結像します。
分光光度計に使用されるマウンティングの代表的なものとして,リトロー(Littrow)形,ツェルニ・ターナ(Czerny-Turner)形,および瀬谷・波岡形に代表される凹面格子形があります。リトロー形は図11のように1枚の球面鏡,または軸外し放物面鏡がコリメート鏡とカメラ鏡をかねています。ツェルニ・ターナ形は図10のように2枚の球面鏡をコリメート鏡とカメラ鏡として対称に配置しています。凹面格子形は図12で,曲率をつけた回折格子に分散と集光の機能をあわせ持たせ,構造を簡略化したものです。それほど分解を必要とせずミラーを減らしたい場合に用いられています。

図10 分光器の基本的な素子(ツェルニ・ターナ形回折格子分光器)
図10 分光器の基本的な素子
(ツェルニ・ターナ形回折格子分光器)
図11 リトロー形回折格子分光器
図11 リトロー形回折格子分光器
図12 凹面回折格子形分光器
図12 凹面回折格子形分光器

3. 分解

白色光を単色光(単波長の光)に分ける働きをもつ分光器について説明してきましたが,単波長と言ってもある幅を持ちます。例えば540nmの光は539.5~540.5nmといった具合です。よってこの光を用いて測定を行うと,539.5nm~540.5nmの情報が混ざったものになります。この光をバンド幅1nmの光と呼び,この分光器は1nmの分解(または分解能)を持つと言います。波長幅が小さいほど,分解が良い,分解能が高いなどと言います。なお,図13に示すように分解やバンド幅は半値幅で定義します。

図13 バンド幅1nmの光
図13 バンド幅1nmの光

分光器中の各素子と配置を固定すれば,分解はスリット幅によって決まります。光は虹状に分散されるため,出口スリット幅を大きくすると分解は悪くなります。入口スリット幅を大きくすると,出口スリット位置での像が大きくなって目的波長に隣接した波長の像が出口スリットに入り,やはり分解は悪くなります。
なお,回折格子には格子数によって回折原理から決まる回折格子自体の分解能があり,その分解能と光学系全体が持つ収差(結像のぼけ)やミラー等の不完全さにより,スリット幅をどんどん小さくしても分解の向上には限界があります。
分光光度計では分光器のスリット幅の値は,スリット幅の寸法ではなく,実現される分解の値で示されます。スリット幅を1nmに設定すると,分光器の分解は1nmになり,バンド幅1nmの光がサンプルに照射されます。

分光光度計による測定では,分解の最適値はサンプルのスペクトル形状によって決まります。検出器に届く光量を増やしてノイズの少ないデータを得るため,スリット幅はある程度大きいほうが良いのですが,分解が悪くなるため本来のスペクトル形状がシャープな場合は図14のようになまってしまいます。スリット幅を小さくするほど本来のスペクトル形状に近付きますが,例えば本来のスペクトルがピークの波形を持つ場合,その半値幅の1/8~1/10にスリット幅を設定すれば,測定結果のピークは本来のピークのおよそ99%以上の高さとなります。1)
ただし,スペクトル形状自体が目的ではなく,検量線による濃度測定が目的の場合は,波形が多少なまっていても測定できるため,半値幅の1/8ではノイズで測定精度が落ちる場合はそれ以上のスリット幅が最適となることもあります。
島津製作所の分光光度計では,溶液の濃度測定ではスリット幅は通常1~2nmに設定すれば十分な分解と光量が得られます。積分球を使った固体の測定ではスリット幅は通常5nm以上に設定します。固体測定では分解はそれほど必要とされないことが多く,積分球での光量損失によりノイズが増加するのを抑えるため,大きめのスリット幅を設定します。

1) 島津吸光分析講座 講義テキスト「分光光度計の原理・構造・応用」(島津製作所)

図14 分解によるスペクトル形状の差(ベンゼンのエタノール溶液)
図14 分解によるスペクトル形状の差
(ベンゼンのエタノール溶液)

4. おわりに

今回は,「白色光を入れて単色光を取り出す」分光器について説明しました。
しかし,分光器に単色光を入れると回折格子を特定の方向に向けたときだけ光が出てくる,ということを利用して,「単色光を入れてその波長を調べる」使い方もあります。
分光器を単体で使用する場合はその使い方がむしろ一般的ですし,蛍光分光光度計や発光分析装置では試料から発する蛍光や輝線の波長を調べるために装置に組み込まれています。
この場合は試料室と検出器との間に分光器を置くことになります。

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