イオンクロマトグラフの溶離液の種類・調製方法

Shim-pack イオンクロマトグラフ用カラムでは,カラムの性能を十分に発揮させるため,それぞれに標準分析条件をご用意しております。ここでは,代表的なカラムと標準的な溶離液の組成・調製方法をご紹介します。夾雑成分が多い試料などでは標準分析条件で分離が不十分な場合があります。このような場合には,溶離液組成やカラム温度などを変更することにより分離が改善することがあります。詳しくは,イオンクロマトグラフィーのアプリケーションをご参照ください。
なお,溶離液を調製する器具,溶離液容器は清浄なものをご使用ください。長期間放置された溶離液容器などを用いて溶離液を調製した場合,雑菌等の繁殖の原因となることがあり,カラムの圧力上昇やカラムの劣化の原因となりますのでご注意ください。
ここに示します溶離液調製手順は,溶離液1 Lを調製する場合を例にしています。試薬の秤量値等は溶離液の調製量に合わせて適宜変更してください。

溶離液の種類

Shim-pack イオンクロマトグラフ用カラムに対応する代表的な溶離液は下表の通りです。分析目的により組成を変更することで,分離が改善することがあります。詳しくはイオンクロマトグラフィーのアプリケーションをご参照ください。専用の分析システムの溶離液,反応液などの調製方法は各専用分析システムの取扱説明書をご覧ください

Shim-pack 
カラム
溶離液組成 流量
(mL/min)
温度
(°C)
IC-A3 8 mmol/L  p-ヒドロキシ安息香酸
3.2 mmol/L Bis-Tris
50 mmol/L ほう酸
1.2 40
IC-SA2 12 mmol/L 炭酸水素ナトリウム
0.6 mmol/L 炭酸ナトリウム
1.0 30
IC-SA3 3.6 mmol/L 炭酸ナトリウム 0.8 45
IC-SA4 5.0 mmol/L 炭酸水素ナトリウム
1.7 mmol/L 炭酸ナトリウム
0.8 50
IC-C4 1) 標準条件
 2.5 mmol/L しゅう酸
1.0 40
2) NaとNH4の高分離条件
 3 mmol/L しゅう酸
 5 mmol/L 18-クラウン-6(1 ~ 5 mmol/L で添加量を調節)
1.0 40

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CoreFocus Library : 化合物名からShim-pack シリーズのアプリケーションを検索可能なサイト

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溶離液調整方法

あらかじめ準備するもの

  • 1L メスフラスコ
  • 溶離液ボトル(GL45タイプだと口が広いのでウィットろ過器で受けやすい)

以下,溶離液のろ過が必要な場合のみ

  • ウィットろ過器
  • 0.2 μm メンブランフィルタ(硝酸セルロースなど)
  • アスピレータ等の減圧器具

使用する“水”について

微量成分の分析で使用する溶離液の調製には,JIS K 0557「用水・排水の試験に用いられる水」で定義されています。A3以上の水が一般に使用されていますが,イオンクロマトグラフでは,超純水製造装置のご使用をお勧めします。また,使用する水は溜め置きしたものは使用せず,新しい水をお使いください。調製に使用した水の純度が悪い場合,ベースラインノイズの増大やドリフトの発生,ゴーストピークやマイナスピークの出現,カラムの劣化などの原因となる場合があります。さらに必要に応じて 0.2 μmのメンブランフィルタでろ過してください。

各カラムで使用する代表的な溶離液の調製方法を説明します。

■ Shim-pack IC-A3

◇組成

8 mmol/L p-ヒドロキシ安息香酸
3.2 mmol/L Bis-Tris
50 mmol/L ほう酸

◇用意する試薬

a) p-ヒドロキシ安息香酸(分子量138.12) ナカライテスク 特級18509-52
※ 1,4-ヒドロキシ安息香酸と表記されている場合もあります。o-,m-,1,2-ヒドロキシ安息香酸などは異なる試薬ですので使用できません。また試薬メーカーや製造ロットの違いによっては,硫酸イオンの位置にゴーストピークが出る場合があります。

b) Bis-Tris(ビストリス) ( 分子量209.24) 富士フイルム和光純薬株式会社 345-04741(株式会社 同仁化学研究所 製)
※ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン

c ) ほう酸(分子量61.83)富士フイルム和光純薬株式会社 アミノ酸自動分析用020-07305

◇調製手順

p-ヒドロキシ安息香酸 1.105 g
Bis-Tris 0.670 g
ほう酸 3.092 g
をそれぞれ秤量し容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。

注 ) p-ヒドロキシ安息香酸は塩基性条件下(Bis-Trisを入れた状態)では溶けやすいですが,粉末状であるため固まりになりやすく,この状態ではなかなか溶解できません。あらかじめ粉砕してから溶解されることをお勧めします。薬包紙で挟んで,指で押さえる程度で簡単に崩れます。

■ Shim-pack IC-SA2

◇組成

12 mmol/L 炭酸水素ナトリウム
0.6 mmol/L 炭酸ナトリウム

この溶離液は10 倍濃縮原液を調製し,必要時に10 倍希釈して使用します。

◇用意する試薬

a ) 炭酸水素ナトリウム (分子量84.01) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 191-01305
b ) 炭酸ナトリウム (分子量105.99) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 199-01585

◇調製手順

i ) 10 倍濃縮原液の調製
炭酸水素ナトリウム 10.08 g
炭酸ナトリウム 0.636 g
を秤量し容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。調製した原液は密閉容器に移して冷暗所保管する。

ii ) 溶離液の調製
10 倍濃縮原液100 mLを容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。

注1 ) 10 倍濃縮原液は冷暗所に保管し,1 ヶ月以内に使用してください。
注2 ) 保管および使用方法の違いにより,溶出時間がずれる場合には,原液を再度調製しなおしてください。

■ Shim-pack IC-SA3

◇組成

3.6 mmol/L 炭酸ナトリウム

この溶離液は10 倍濃縮原液を調製し,必要時に10 倍希釈して使用します。

◇用意する試薬

a ) 炭酸ナトリウム (分子量105.99) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 199-01585

◇調製手順

i ) 10 倍濃縮原液の調製
炭酸水素ナトリウム 3.816 g
を秤量し容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。
調製した原液は容器に移して冷暗所保管する。

ii ) 溶離液の調製
10 倍濃縮原液100 mLを容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。

注1 ) 10 倍濃縮原液は冷暗所に保管し,1 ヶ月以内に使用してください。
注2 ) 保管および使用方法の違いにより,溶出時間がずれる場合には,原液を再度調製しなおしてください。
 

■ Shim-pack IC-SA4

◇組成

5.0 mmol/L 炭酸水素ナトリウム
1.7 mmol/L 炭酸ナトリウム

この溶離液は10 倍濃縮原液を調製し,必要時に10 倍希釈して使用します。

◇用意する試薬

a ) 炭酸水素ナトリウム (分子量84.01) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 191-01305
b ) 炭酸ナトリウム (分子量105.99) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 199-01585

◇調製手順

i ) 10 倍濃縮原液の調製
炭酸水素ナトリウム 4.201 g
炭酸ナトリウム 1.802 g
を秤量し容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。
調製した原液は容器に移して冷暗所保管する。

ii ) 溶離液の調製
10 倍濃縮原液100 mLを容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。

注1 ) 10 倍濃縮原液は冷暗所に保管し,1 ヶ月以内に使用してください。
注2 ) 保管および使用方法の違いにより,溶出時間がずれる場合には,原液を再度調製しなおしてください。

■ Shim-pack IC-C4 ①

◇組成

2.5 mmol/L しゅう酸

◇用意する試薬

しゅう酸ニ水和物 (分子量126.07) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 159-00425

◇調製手順

しゅう酸ニ水和物 0.315 g を秤量し容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。

■ Shim-pack IC-C4 ② (NaとNH4の高分離条件用の溶離液)

◇組成

3 mmol/L しゅう酸
5 mmol/L 18- クラウン-6混合水溶液

◇用意する試薬

しゅう酸二水和物 (分子量 126.07) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 159-00425
18-クラウン-6( 分子量 264.32) 富士フイルム和光純薬株式会社 特級 031-12542

◇調製手順

しゅう酸二水和物 0.378 g
18-クラウン-6 1.322 g( 1 mmol/L添加の場合は,0.2644 g)
を秤量し容量1 Lのメスフラスコにいれ,超純水を加えて溶解後,全量を1 Lとする。

注1 ) 18-クラウン-6は NH4 ,K の溶出位置を考慮して 1 ~ 5 mmol/L の範囲で添加量を調節します。
注2 ) K を Mg と Ca の間に溶出させる条件のため,カラムの特性に合わせて濃度調整が必要な場合があります。
注3 ) 水道水分析では,1 ~ 1.5 mmol/L 程度の添加量でも分離が改善されます。この場合,K は Mg の前に溶出します。
注4 ) 10倍程度の高濃度液を調製しておくと便利です。